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大正10年の山梨日日新聞「妖怪研究」④完 

研究室のある甲府も連日35度超えの日が続いています。
梅雨が明けるのが早かったためか、例年より酷暑が続き、かなり参ってきています。

今朝の南アルプス方面の様子はコチラ↓ 最近霞んでいる日が多いです。
20180719風景

さて、前回からの狐狸続きということで、大正10年11月25日付けの「妖怪研究(二十二)狐の御馳走 =名医の恩に感じて」を紹介したいと思います。

妖怪研究の実験談原文は全ての組織や登場人物が具体的に固有名詞で書かれている(実在かどうかは一部のみしか確認していません)のですが、利害関係がある方が万一いらしては困るので、これまで全てイニシャルで表示しています。しかし、本話は原文同様主人公をはっきり書いておいた方がよいと考えたので、イニシャルではなく、固有名詞で書き進めたいと思います。

主人公は、 辻保順 という江戸時代から明治時代にかけての実在のお医者さんです。初代の保順守瓶翁(1750~1810年)は、現在の笛吹市春日居町国府で医業を始め、その子孫の多くも医業に従事され、明治時代の四代目までは保順を襲名していたようです。現在は十代目に当たる辻先生が埼玉県東松山市で医療法人保順会・辻保順医院(URL:http://tsuji-hojun-clinic.com/))という病院を経営されています。なお、この家の歴史は、血縁でもある仏文学者・作家の 辻邦生 氏が『銀杏散りやまず』(新潮社)という作品にも書かれています(庵主は斜め読みのみ)。

図にしてみました。
辻保順略系図

記事では、後半に登場する辻頼母氏を保順翁のひ孫と紹介されており、本話の保順翁は初代になります。

さて、妖怪研究の記事は以下のような内容です。

峡東八幡村(注)に辻保順という名の名医がいた。あるとき、狐が魚の骨をのどにひっかけて苦しんでいたのを救ってやったことがあった。その後しばらくすると、ある家から駕籠で迎えにきた。行ってみると、見慣れない家であったが、相当な資産家と見えて、立派な造りで、調度品も見事であった。立派な服装をした主人が出てきて、「先ごろはおかげさまで危なかった命が助かりました。今晩はようこそお出でくださいました」と保順翁に挨拶をしてから、家族に命じて、お膳を出し、善美を尽くした料理を並べて、饗応した。そうするうちに夜が更けてきた。
 村の百姓たちが野良へ出ようとして見ると、保順翁が畑の中に座って、いい機嫌で酒を飲んでいる。百姓たちは驚いて背中をたたくと、保順翁ははじめて気がついた。このような場合、狐の饗応は本物ではないのが普通だが、この時はすべて本物のご馳走で、しかも金蒔絵の膳や杯はそのまま残っていたのであった。だんだんと調べて見ると、前にのどの骨を抜いてやった狐が饗応したのであろうということになった。しかもその膳は、その夜近くの村の某家で行われた婚礼の席上から一人分をそっと持ち出してきたものであって、それは今も同家に保存されているはずだ、と。
 以上は、筆者の知り合いのある老人の話である。

(注)八幡村は現在の山梨市域の一部。後述のとおり辻保順医院は初代から六代目まで現在の笛吹市春日居町国府にあったので、八幡村ではない。

記事出典:湯本豪一『大正期怪異妖怪記事資料集成(上)』(国書刊行会、2014)1264頁


のどに刺さった骨を抜いてやると恩返しに来るという話は、民話によくある話です。
たとえば、オオカミなどを対象とした類話は山梨県内でも収集されています。たいていは、獲物を届けてくれたりとか、危険を知らせてくれたりとかの恩返しですが、実物の料理で饗応したとする点に化けることのできる狐の特徴があるかもしれません。

この記事にはまだ続きの話があります。

甲府市百石町(現:甲府市丸の内二丁目付近)の辻頼母氏は保順翁のひ孫にあたる人である。同氏に筆者がこのことを尋ねてみると、同氏は保順翁が狐を治療してやったことと狐が恩に感じて、保順翁が深夜に患者宅から帰るときは門前まで送ってきたということは聞いているが、饗応を受けたということは聞いていないとのことであった。同氏によると、辻家には武田信玄公の所持していた椀が家宝として伝えられているので、あるいはそれについての誤伝ではないかとも言っておられる。しかし、この椀は精神病者に枕許に置くと、不思議に病人の心を静め、これを治癒させる霊妙な力があるとのことである。


狐の饗応の話は裏が取れなかったようです。その一方で、病人を治す信玄公由来の椀 の話が登場するとは、さすが妖怪研究、怪異は尽きません。

大中院(笛吹市春日居町国府)にある現在の辻家墓所。笛吹市の史跡になっています。
辻家の墓

怪語れば、怪来る。
怪が本格的に来ないうちに、大正10年の山梨日日新聞「妖怪研究」の記事紹介は終わりにしたいと思います。

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Posted on 2018/07/19 Thu. 10:38 [edit]

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