甲府地裁平成民事判例の紹介(12・完)-平成27年10月6日判決 

月曜日に前期試験の発表も終わり、今週末の後期試験の間の庶務処理週間の庵主の研究室です。

今朝の南アルプスの様子はコチラ↓ 久しぶりですね。
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さて、今日は「甲府地裁平成民事裁判例の紹介」の最終回です。
庵主が使っている判例システムで見たところ、比較的おもしろ気なものが出尽くした感があるので、一旦終了とさせてもらいます。今後は、何かあれば的に紹介したいと思います。

今日の裁判例は、発注を受けられると思って、機械も導入した会社が期待した発注を受けられなかったことを原因として損害賠償を求めた甲府地裁平成27年10月6日判決です。
このような事案は、訴訟にまで至るかどうかは別として、お互いに都合のよいビジネストークの中でしばしば発生するおそれのあるものです。山梨特有の事案ではないものの、ありがちな民事事件としてとりあげておきたいと思います。

【事案】
 原告X社は雑穀類の精白加工・販売等を行う株式会社であり、被告Y社は精麦、精米、製粉、製麺その他各種食品類の製造加工等を行う株式会社である。平成14年(2002年)以降、X社はY社から技術・人材の支援を受け、主たる事業を雑穀事業に転換し、そのころから雑穀製品についてY社を委託先、X社を受託先とする製造委託取引を行っている(この当時Y社はX社の49%の株式を保有し、役員も派遣していた)。今回問題となった取引については平成16年4月1日付けで取引基本契約書も締結している。
 訴外A社が雑穀製品のテレビCMを放映するようになり、その影響でY社の販売する雑穀製品の売り上げも伸びてきた。そこで、Y社は平成21年初頭ごろ拡大販売計画を立て、新商品(以下「本件製品」という)の販売を同年秋に販売することとした。しかしながら、Y社工場の製造能力は当該計画の販売計画を下回り、製造能力の増強に時間を要するため、Y社はX社に対し上記計画を示し、製品の製造および新たな包装機械の設置が可能かについて検討を依頼した。また、同年5月および6月にX社はY社から平成21年度ないし平成23年度の製造重量および金額を記載した商品一覧表および雑穀事業の見通しを記載した書面を交付され、これらに基づいて自社の生産能力を検証したところ、包装機器の生産能力が不足するとして、新たな包装機器(以下「本件包装機械等」という)の設置を決定した。平成21年9月には本件商品(Y社製造)の販売が開始され、その後複数回開催されたY社の会議において、X社への製造委託開始時期を平成22年4月とすることが検討されていた。
 しかし、訴外A社のテレビCMは放送されず、本件商品の販売は商品一覧表に記載された内容を大きく下回り、Y社は従来からX社の製造委託している製品の発注(一部は本件包装機械が製造された)を除き、平成21年から平成23年の間製造委託の発注は行われなかった。その間、製造委託や本件包装機械に関する要望や交渉がX社・Y社間で交わされたものの、交渉は決裂し、上記取引基本契約もY社の申し出により終了した。
 そこで、X社がY社に対して、売買契約の債務不履行(主位的主張)または信義則上の注意義務違反(予備的主張)に基づく損害賠償を求めたものが本件である。

【判決】一部認容
1.債務不履行
 商品一覧表を提示し、X社が本件包装機械等の購入を決定した平成21年8月までに、当該商品一覧表に基づく製造委託契約が成立したとするX社の主張に対し、裁判所はX社・Y社間の取引基本契約には個々の委託契約の発注方法が定められており、また従来行われていた発注方法がこれに該当し、また上記商品一覧表には納期等を定められていないところ、別途合意がなされたとは認められず、3年もの長期にわたる製造委託の合意があったと考えることは不自然であるとして、商品一覧表の提示は注文に該当せず、契約が成立していない以上、X社の主張する債務不履行は認められないとした。
2.信義則上の注意義務違反
 裁判所はまず損害賠償を負うべき場合について、「契約を締結するか否かは、本来、当事者の自由な判断によるべき事柄であるが、当事者間の契約の交渉が成熟し、当事者の一方が当該契約の締結につき強い信頼を抱く状態に至った場合には、上記信頼は、信義則に照らし、法的に保護すべきものといえる。そして、一方当事者の上記信頼が法的保護に値するものと認められる場合において、相手方が帰責性のある行為により契約を締結せず、それが信義則違反と評価されるときは、相手方には、法的保護に値する利益を侵害したものとして、信義則上の注意義務違反による不法行為が成立し、相手方は、これと相当因果関係のある損害として一方当事者が契約の締結を信頼して支出した費用を賠償すべき責任を負うものというべきである」と規範立てをしました。その上で、契約交渉の発端、具体的な販売計画の提示、本件包装機械等の設置を前提とした被告による委託開始準備状況、さらに長年の取引関係、などの事情から、被告Y社は原告X社に対して、本件製品について、原告が本件包装機械等で製造することを前提に、商品一覧表「に記載された程度の内容の個別の製造委託契約を締結できるとの強い信頼を与えておきながら、本件商品の売上げが当初の予測を下回ったことにより、原告との間で個別の製造委託契約の締結をしなかったものであって、このような被告の対応は、被告に帰責性のある行為であり信義則に反するものと評価するのが相当であ」って、「被告には、信義則上の注意義務違反が認められ、被告は、原告の法的保護に値する利益を侵害したものとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負う」とした。

【紹介】
1.判決文中では、Y社について、国内雑穀市場の市場占有率は第1位(34.7%)としていることから、Yは富士川町にある大手の「●く●く」ですね。公表判決文でも仮名になっているので、梨大卒業生の有力も就職先でもありますし、この紹介でも仮名のままにしておきます。X社は少し新聞記事などを調べてみたものの、不明でした。
2.予備的主張は、いわゆる「契約締結上の過失」といわれるものです。現行法には規定はないものの、学説・判例で認められています。裁判所の説示部分(判旨の赤太字のところ)を、目がチカチカするでしょうが、参考にしてください。
 夢のある案件であればあるほど、現場は上手くいかなかった場合を想定しておらず、どこの会社でも起こりうる問題です。
 法務部門があれば助言ができたはずなので、「●く●く」も法務部門を整備しませんか?
3.損賠賠償額については、「(包装機械の購入価格相当額-中古価格)×過失割合5割」という算式で求められました。
 過失割合5割というのは引き分けに近いといえるでしょう。競合他社のコマーシャルに期待した販売計画を提示されて、それをうのみにして設備投資したことに原告の落ち度があったことが認められた結果です。
4.この事件は東京高裁に控訴され、損害賠償額が減額されたものの、X社の予備的主張は認められました(東京高判平成28・6・16)。

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Posted on 2017/03/08 Wed. 16:57 [edit]

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