甲府地裁平成民事裁判例の紹介(10)-平成23年6月30日判決  

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20170105風景

さて、今日取り上げる裁判例は、大学のサークルでの飲酒時に急性アルコール中毒で死亡した学生の両親がサークルの上級生に対して訴えを起こした-甲府地裁平成23年6月30日判決(判例時報2123号108頁)-です。山梨独らしい事件ではないものの、間もなく学生たちも春休みを迎える前なので取り上げておきたいと思います。

【事案の概要】
本件は、原告X1・X2の子A男(当時大学1年生。19歳)が所属する大学生のテニスサークルでの飲み会において、焼酎の回し飲みを行って泥酔し、急性アルコール中毒で死亡した事件について、原告らが同サークルの上級生であるY1(サークル代表者。当時大学2年生)ら6名に対し、不法行為ないし安全配慮義務違反として損害賠償を請求したものである。
裁判所の認定した飲酒の態様は次のとおりである。A男とY1らは、平成19年(2007年)2月22日から23日にかけて、サークルメンバーの誕生日会として開催されたY1の自宅における飲み会(参加者18名)に参加した。23日午前2時を回ったころ、A男を含む1年生5人全員と被告Y1と被告Y2(当時大学4年生)の間で、Y1・Y2の提案による焼酎「大五郎」20度の2.7リットル入りペットボトルの回し飲みを行った。この回し飲みの態様は、焼酎の「ペットボトルを、それぞれがボトルに口をつけてラッパ飲みし、飲めるところまで飲んで、次の者に回すという形」であり、「飲んでいる者に他の者がかけ声をかけ、手拍子を打って囃し立てるなど」するもので、サークル内では以前から時々行われていた。ペットボトルが回っているうちに参加者は順次離脱し、最終的にはA男とY2の二人が互いに飲ませあう形となっていた。A男とY2はペットボトルを飲み切ったのち、酔いつぶれて寝ていたところ、午前4時ごろに後片付けをしていたY1はA男が失禁しているのに気づき、また、午前7時ごろにY1はA男の呼吸が早くなって息苦しそうな様子に気づいたものの、特段の処置は行っていない。その後、正午ごろにY1と訴外B(当時大学1年生)が目を覚まし、A男の容態の異常に気付き、救急車を呼んだものの、その後死亡(検視による死亡推定時刻は午前6時ごろ)が確認された。

【判旨の概要】 請求棄却
1.回し飲みを強要の強要および救急救命措置をとる義務について
 サークルの飲み会への参加の状況、本件回し飲みの状況などから、裁判所は被告らがA男に対して一気飲みの強制をし、酔いつぶしたとは考え難いとした。さらに、原告らが主張する救命救命措置をとる義務について、その義務違反の不作為がA男の「死亡についての財産的精神的損害を賠償する不法行為責任を構成するものとして主張されているのであるから、その義務の存否は慎重に検討されなければならない」とした上で、原告が主張する論拠である、①条理による義務、②先行行為に基づく義務、③事務管理行為の開始による義務のいずれも裁判所はこれを否定した。

2.予見可能性について
 原告らは、亡A男が意識を喪失し失禁するという異常な事態に陥ったのであるから、死の結果発生の可能性について予見可能性があったと主張しているところ、裁判所は、A男の飲酒量は証拠上明らかではなく、また、A男の失禁に気づいたことが明らかなのはY1のみであったことから、予見可能性が問題となるのは被告のうちY1のみであるとした。その上で裁判所は、「泥酔時の尿失禁は昏睡状態でない場合にも少なからず見られる現象であること、また、一般人が泥酔者の尿失禁を見て、急性アルコール中毒によって昏睡状態にあるのか、単に酩酊して眠っているだけなのかを判定することは不可能であり、したがって尿失禁から死亡の危険を予知することも困難である」との被告側医師の意見書を採用し、また、被告Y1らの「法廷での証言あるいは本人尋問において、飲酒の結果失禁をした経験があり、酒を飲んでの失禁は珍しいことではなかったとの趣旨の供述」から、当時の本件サークル内に属する者の間では、酔いつぶれて失禁することはさほど危険視も問題視もされていなかったことが認められるとし、Y1に対する予見可能性-不法行為責任における過失の存在-を否定した。
 
3.安全配慮義務について
 本件サークルは、「学生を主体とした完全な任意参加の団体であり、メンバーへの拘束力は弱」く、「メンバー内の一年生と上級生との間の関係についても、特段上下関係や規則が厳しかったという証拠はない」。被告Y1は本件サークルの代表者であったといっても、そ「の目的が、メンバー相互のテニスや飲酒を通じての懇親をはかるといったものであって、組織的統制のもとに一定の社会的活動を果たすことを目的とする団体ではないから、代表者の地位も、結局は親睦団体の連絡役といった程度のものに過ぎないと考えられる」。そうすると被告らに対し安全配慮義務を課すことは困難であると言わざるを得ない。

【簡単な紹介】
1.回し飲みが行われた焼酎「 大五郎 」は、割安の焼酎として有名だそうです。庵主は飲んだことはありません。
  メーカーによる商品紹介のURLはコチラ↓ リンク切れ御免
   http://www.asahibeer.co.jp/products/shochu/korui/daigorou/

2.大学のクラブ活動やサークルにおける飲酒事故は、春の新歓時や夏の合宿時に耳にすることはありました。本件は1年生が亡くなったとはいえ、入学から1年近くたった時期の事件であり、その点も強制性の否定の判断材料の一つとなっています。

3.判決では損害賠償請求の根拠となる、A男を救護すべき法的義務が被告たちにはないとしました。ご両親の無念を考えると、いたたまれない部分はあるものの、本件の事案からすると裁判所の判断としては妥当なものであったと思われます。

4.参加者全員が被告となっているわけではありません。被告6名は、サークル代表者の2年生のY1ほか、4年生の学生たちのようです。しかし、被告となっていない4年生もいるようですし、回し飲みに参加した4年生のY2とY3以外の4年生に対する対する請求の論拠はもともと弱かったような気がします。

5.研究室の庵主は不幸な事故には遭遇しませんでしたが、後から冷静になって考えると、ヒヤリとすることもありました。大学名は仮名ですが、山梨にそれほど大学があるわけでもありません。他人事ではないのです。命を奪うこともあるアルコールの怖さを学生たちと共有しておく必要があります。

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<おまけ>
寒い入りのとても寒そうな南アルプスの夕暮れ
20170105風景2

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Posted on 2017/01/05 Thu. 16:41 [edit]

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