甲府地裁平成民事判例の紹介(2)-平成5年1月28日判決 

研究室のある甲府は朝から気温が上がってきています。
世間ではゴールデンウイークということもあって、大学内も少し落ち着いている雰囲気です。

今日の研究室の窓からの風景はコチラ↓ 残雪のある南アルプスも多くの人出なんでしょう。
20150430風景

さて、明日から実家の方に顔を出しに戻ることもあって、更新しておきたいと思います。
甲府地裁民事判例の紹介の第2回目です。今日は、≪甲府地方裁判所平成5・1・28判決(農地所有権移転登記抹消登記手続等請求事件)・税務訴訟資料194号104頁≫を取り上げたいと思います。

【事実関係】
 甲州市勝沼町等々力ほか(当時:東山梨郡勝沼町等々力ほか)で、妻とともに農業を営んでいた原告Xは、昭和54年(1979年)11月にXの一人息子・被告Y1に対して同地にある農地1600坪を一括して生前贈与し、同月中に農地法の許可も得た上で、所有権移転登記手続を行なった。
 一方、被告国(Y2)は、X・Y1間の贈与に係る贈与税等の担保のため、上記の農地について、抵当権を設定した。
 被告Y1は、上記贈与を契機として、原告Xらとともに、上記農地の耕作に精勤していたが、昭和60年(1985年)暮頃、結婚問題を原因として、以来自宅を後にして、これを放擲し、原告らの再々の説得にもかかわらず、農業および上記のうちに全く未練がないことを表明した。
 そこで原告Xは、被告Y1に対し、上記贈与が錯誤によって無効であり(民法95条)、所有権移転登記の抹消を求め、また被告Y2に対し、この抹消について利害関係のある第三者としての承諾(旧不動産登記法146条、現行法68条)を求めた事案である。
【判  旨】
(被告Y1について) Xの主張する「事実はすべて当事者間に争いはない。」
(被告Y2について)被告Y1が贈与後おそよ九年間は原告Xの後継者として濃厚に従事しており、その間離農を決意したことは一度もなく、その後に生じた贈与と無関係な事情(結婚問題)により初めて離農することを決意するまでに至ったことが明らかである。贈与の時点では、上記農地の贈与契約と贈与するとする原告Xの意思に何らの齟齬はなく、Xに民法95条の錯誤は存在しなかった。Y1の離農は後発的な事情に過ぎない。
 なお、租税特別措置法の趣旨(70条の4。農地等納税猶予の特例)も、受贈者が後発的理由により農業経営を廃止した場合には、猶予は受けられなくなると定めており、これは農業経営の廃止が贈与契約の効力に影響を与えないことを示している。
【紹  介】
1.勝沼町等々力・綿塚の農地なので、Xさんは果樹農家なのでしょうか。
2.原告である父Xと被告である息子Y1との間に争いはなく、本件の狙いは、贈与税の負担なく、土地の名義を元に戻したいということにたったようです。X・Y1との間だけなら合意解除という法律構成もあったのでしょうが、合意解除場合、受贈者は原則として贈与税は支払わなければなりません昭和39年5月23日直審(資)22、直資68「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」通達)。それを回避するため、錯誤無効を主張したと推測されます。
3.民法95条の錯誤とは、言い間違え、対象間違えなどで契約が締結されてしまった場合、言い間違え等をした人を保護するため、一定の要件の下で、契約を無効にすることができるものです。裁判所は、Xが「農家を継いでくれると思った」のでY1に贈与したところ、9年後に離農したことが錯誤にはあたらないとしました。なお、今年の3月に国会に提出された改正法案では、「無効」ではなく、「取り消しができる」とされ、錯誤でした契約も原則有効となっています。
4.判決では、X・Y1間では錯誤無効が認められ、X・Y2間では認められなかった形になっています。当事者間に争いのない事実はそのもあま裁判の基礎にしなければならない(弁論主義第2原則)とする民事訴訟の建前からはありうべき事態です。

 
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Posted on 2015/04/30 Thu. 13:37 [edit]

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甲府のノラ-猫編17号 

今日の甲府は熱いニャ~。
ここは涼しいかニャ~と、思ったら、覗くのは誰だニャ~。

20150428ノラ17号

Posted on 2015/04/28 Tue. 13:43 [edit]

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甲府地裁平成民事判例の紹介(1) 

研究室のある甲府も久々に良い天気に恵まれており、朝から気温が上がっています。

今朝の研究室の窓からの風景はコチラ↓ うす雲はありますが、概ね快晴です。
20150416風景

さて、研究室の庵主は、この週末も大阪での研究会に出席するため移動しており、記事が更新できないおそれがあります。
そこで、短い事件ですが、予告のシリーズ「甲府地裁平成民事判例の紹介」を書いておきたいと思います。なお、このシリーズでは、公立図書館にも所蔵されている大手判例雑誌(判例時報、判例タイムズなどがあります)に掲載されているような判例・裁判例は原則紹介しません。

では、さっそく今日の事件≪甲府地裁平成2・8・23決定(借地権譲渡許可申立に伴う優先買受申立事件)≫です。

【事実関係】
甲府市相生に土地を賃借し、自宅建物を所有していた申立人Xは、老齢となり、稼働できないため、今後の老後資金と同居を予定する娘夫婦宅への引っ越し費用が必要となった。そこで、この自宅を借地権ともども第三者に譲渡しようとしたが、相手方・地主Yの承諾が得られなかったので、借地法9条の2第1項に基づき、地主の承諾に代わる許可の申立てを行なった(甲事件。平成1年(借チ)1号事件)。
これに対し、地主Yは借地法9条の2第3項に基づいて、当該建物等を自己に譲渡する旨の申立てを行った(乙事件。平成1年(借チ)2号事件)。
【判旨】
XはYに対し自宅建物(本件建物)と借地権を売渡すものとし、その対価は金2065万円とする。そして、対価の支払いと本件建物の所有権移転登記手続は同時に履行せよ。
Xが本件建物および賃借権をYに譲渡する場合の対価の額については、「鑑定委員会の意見により金二○六五万円と認めるのが相当である(なお、相手方は、右対価はいわゆる名義書換料一七○万円を考慮すれば、金一九八○円に止まるものと主張するが、本件土地周辺の地価が一般的に高騰していること、いわゆる名義書換料は借地権譲受人の利益にも係るものであるから、借地権譲受人も一般的に相応の負担をすべきものと解される」とした。
【紹介】
1.借地権(建物を保有するための設定された地上権または賃借権。借地法1条、借地借家法2条1号)が賃貸借契約に基づく場合、地主の承諾なく、借地権を譲渡したり、転貸すると、地主は借地契約を解除することができます(民法612条)。しかし、地主にとって不利にならないのであれば、借地権の譲渡(借地上の建物の譲渡が伴うことが少なくありません)を認めた方が、借地人の利益にも、ひいては建物の有効活用にもなります。
 そこで、地主が不利にならないにもかかわらず、上記承諾をしないときは、借地法9条の2第1項(平成20年1月1日以降に設定された借地契約ならば借地借家法19条1項)に基づいて、地主の承諾に代わる許可の申立てを裁判所にすることができます。本件甲事件はこの申立てです。
2.借地の場合は、建物所有目的ということもあり、誰が借地人かという問題が借家の場合に比べて小さいものの、全く無関係ではありません。そこで、上記1の申立てがあった場合、地主は借地法同条3項(借地借家法同条3項)に基づいて、自分に建物と借地権を譲渡する旨の申立てができます(介入権)。本件乙事件はこの申立てです。
3.上記2の申立ての場合、裁判所は「相当の対価」の支払いを地主に命じることができるとされており、これは一般的に「建物価格+借地権価格-承諾料相当額」とされています(澤野順彦『不動産法の理論と実務〔改訂版〕』(商事法務、2006年))。
4.本件の対価の額2065万円は、1980万円+名義書換料170万円÷2、と同じ額なので、「相応の負担」は1/2としたとも考えられる事例ですね。
5.判旨に出てくる鑑定委員会の意見について、裁判所ウエッブサイトでは、「裁判にあたっては,更地価格や借地権価格,賃料などを評価するために,専門的な知識が必要となりますし,一般良識が反映されたものにすることも大切です。そこで,裁判所は,不動産の専門家(不動産鑑定士),法律の専門家(弁護士)及び一般良識者の3人の鑑定委員によって構成される鑑定委員会に意見を求めることがあります。鑑定意見書の作成費用は,国の負担になります。」と説明されています。、

Posted on 2015/04/16 Thu. 13:09 [edit]

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甲府地裁平成民事判決の紹介(0) 

今日の甲府は朝から快晴です。行楽日和です。
一方、研究室の庵主は先週から始まった非常勤講師先-首都大学東京法科大学院-の講義の準備もあり、研究室に登校しています。
手帳を見てみると、2週間休みなしで登校しています。企業に勤務しているときには、こんなことはなかったのですが。

というわけで、久しぶりにブログも更新します。研究室の窓から見える南アルプス写真も更新です。

今日の南アルプスはコチラ↓ 山の上はまだまだ雪があります。
20150412風景

さて、今日は明日の講義ノートを整備するために登校しているので、記事のアップは勘弁してもらい、今後のシリーズの予告のみとさせていただきます。

一応地方国立大学の教員であり、地域・地元の研究ということで、「甲府地裁平成民事判決の紹介」と銘打って、平成元年以降に甲府地方裁判所が行った民事判決の紹介(解説は時間がかかるので、コメント付きの紹介)をしてゆきたいと思います。ちなみに元データは大学で契約している、第一法規のD1-Law.comを使います。

もちろんすべて取り上げるわけではないのですが、平成以降の甲府地裁民事判決には次のようなものがありました(●は公刊されている判例雑誌・裁判所ウエッブサイトに掲載あり、○はなし)。

●平成1・6・28判決(建物等収去土地明渡請求、仮処分異議事件)
●平成1・6・28判決(仮処分異議事件)
○平成2・8・23決定(借地権譲渡許可申立に伴う優先買受申立事件)
●平成3・1・22判決(保険金請求事件)
●平成4・10・6決定(売却のための保全処分申立事件)
●平成5・1・28判決(農地所有権移転登記抹消登記手続等請求事件)
●平成5・3・31判決(富士吉田市外二ヶ村恩賜県有財産保護組合に代位して行う不当利得返還請求事件)
●平成5・4・8決定(不動産強制競売申立事件)
●平成5・8・9判決(立木伐採妨害予防請求事件)
●平成5・12・22判決(損賠賠償請求事件) 山梨東電訴訟第一審判決
●平成5・12・27決定(椎葺種菌生産販売禁上仮処分申請事件)
●平成6・3・23判決(建物等収去土地明渡等請求、当事者参加申立事件) 南都留郡忍野村忍草区入会地
●平成8・3・7判決(約束手形金請求事件)
●平成10・1・16判決(損害賠償請求事件)
●平成10・2・25決定(産業廃棄物中間処理施設建設続行禁止仮処分申立事件)
●平成10・7・16決定(保全異議申立事件) 上記平成10・2・25関連
●平成10・11・14判決(退職金請求事件) 甲府商工会議所事件
○平成15・9・26判決(損害賠償請求事件)
○平成15・11・25判決(本訴土地明渡請求、反訴妨害排除請求事件) 旧中野村平野区入会地
●平成16・1・20判決(損賠賠償請求事件)
●平成16・4・27判決(賃料減額確認請求事件)
●平成16・5・27判決(預金払戻請求事件)
●平成16・7・6判決(損害賠償請求事件)
●平成16・9・28判決(地位確認等請求事件)

と、検索結果リストの前半半分くらいをあげてみました。
次回以降庵主が興味をもったものを紹介してゆきたいと思います。

Posted on 2015/04/12 Sun. 11:31 [edit]

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東大合格に100万円-鹿児島県伊佐市の取り組み 

今日の甲府は信玄公祭りです。
朝から曇天ですが、お祭り参加者・観光客のみなさんのために雨が降りませんように。

今日の南アルプスの様子はコチラ↓ 曇っているし、昼間なのに暗いです。
20140404風景

一昨日の南アルプスの様子(近影)はコチラ↓ 甲斐駒も見えるお出かけ先(信玄橋)からです。
20150402風景

さて、今日は来週から始まる非常勤先(首都大法科大学院)の講義の準備のため、庵主は研究室に籠っています。そんなこともあって、法律を少し離れた記事に注目しました。

今日の朝日新聞朝刊オピニオン面に出ていた、昨年鹿児島県伊佐市が始めた奨学金制度(地元の大口高校に進学し、東大などの旧帝大や早慶などの難関私大に合格した生徒には100万円の奨学金を支給する)について、制度を導入した隈元伊佐市長、100ます計算の陰山立命館大学教授、経営コンサルタントの塩野誠氏の3名によるコメントです。

記事の写真はコチラ↓
20150404新聞

朝日新聞デジタル版URL(IDが必要):http://www.asahi.com/articles/DA3S11687297.html

この制度がマスメディアに取り上げられたとき、「東大」「100万円」が強調されており、庵主も大学によって金額が違うとかに違和感を持ったのですが(ちなみに庵主のいる大学なら30万円のようです)、その一方地元の大口高校への進学者増加のための話題作りとしては仕方がないのかなと思ったりもしていました。

隈元市長によると、地元の県立大口高校への進学希望者が定員120人に対し56人しかおらず、もし増加できないと学級減になってしまうが、その原因の一つに地元中学の成績上位者が市外の高校に流失しており、これを防ぎ、生徒を集める手段として、いちき串木野市で実施している制度を参考にして作ったということです。地域が生き残るためには地元に高校生をつなぎ留めるための工夫が必要なんだということをおっしゃっています。また、大口高校が目指すのは、県内にあるラ・サールのような進学校ではなく、将来地元に帰ってくる、あるいはつながりを持ち続けながら、中央で活躍する人材を育成する高校にしたいとのことです。

陰山教授は、東大合格に必要な条件として、①基礎的な学力②受験のスキル、そして何よりも③本人の「東大に入りたい」という強い意欲を挙げ、それぞれの具体案を挙げらています具体案自体もおもしろく、ポイントはついている気がするのですが、隈元市長をはじめ地方に暮らす人たちがどう受け止めるかには若干懸念があります。

東大ではないのですが、旧帝大の卒業生である庵主の経験からすると、陰山先生の上げる条件の加え、あるいはその前提として、④これらを支えるある程度の経済力をあげておきたいと思います。

この点に関連することをを述べているのは、塩野氏です。ただし、貧困世帯の教育格差の解消には100万円では足りないと断言しています。そのとおりでしょう。これは特定の地域の問題ではなく、日本全体の問題として考えなければなりません。

塩野さんは、東大を筆頭としたいわゆる一流大学を目標においていることに疑問を呈しています。ビジネスの世界では東大卒という肩書はビジネスの現場で威力を失いつつあり、ましてやイノベーションの最先端では全く無意味であるとしています。地域の担い手の確保が必要なら、むしろ、一定期間の地元での活動を条件に、医学部合格者を対象に奨学金を出すべきだとされています。

数年前まで企業に身を置いていた庵主としては、とうの昔に威力は失われいるとの印象です。
ただし、過去何十年と中央官庁や大手企業に人材を送り込んでおり、また、毎年必ず何割かの優秀な人材を輩出する東大を卒業した人を採用しておこうという考え方もあります。つまり、「東大生のA君は戦力としては期待できないかもしれないが、同窓生の誰かは監督官庁に入庁するし、重要取引先に先輩も多いので、とりあえず採用しておこう」との考え方もあります。

上記3名の方の意見を読んでいて、庵主の感想は、やはり当事者であり、追い込まれている隈元市長の意見に説得力があるということです。ただし、隈元市長によると導入初年の今年の春の入学者は66名に留まったとのこと。
反対のあった政策は失敗が明らかになっても、意地で続けてしまうおそれがあります。解や策はひとつではないので、見直しつつ、地域や地元高校の活性化を図ってゆかれることを期待しています。

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おまけ:今日の校内のようす-サクラ舞い散る図書館裏駐車場

20140404校内

サクラの向こう側あたりに普段は富士山(の頭)が見えるんですが・・・


Posted on 2015/04/04 Sat. 16:53 [edit]

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2015-04