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人名用漢字を考える 

新年明けましておめでとうございます。
研究室のある山梨大学では本日から講義が再開しています。教職員は世間並みに月曜日が始業でしたが、庵主は昨日から研究室に登校し、リハビリ中です。

今日の研究室の窓から見える南アルプスはコチラ↓ 見た目の寒さ満点です。
20150107風景

お正月休みには、大先生から命じられたロシア語文献を読む準備としてのロシア語の復習(まとまって勉強するのは20数年ぶりなので、復習とは呼ばないかも・・・)をしつつ、こちらの記事になるものも探していました。しかし、民事法系の話題というのは正月にはあまり表面化しないので、メディアからはアイデアを得られないまま、今日まで更新できずとなりました。

さて、今朝の新聞記事やネットのニュース項目を見ると、人名漢字に「巫」という漢字が追加されたとのニュースが出ていました。

例えば、毎日新聞の電子版の記事はコチラ↓ http://mainichi.jp/select/news/20150107k0000e040151000c.htmlより

法務省は7日、戸籍法施行規則を改正し「巫女」の「巫」の字を人名用漢字に追加した。生まれた子の名前に「巫」を使った出生届を受理されなかった三重県松阪市の夫婦が不服を申し立てた家事審判で勝訴し、確定したため。

 法務省民事局によると、人名用漢字の追加は2009年の「穹」「祷」以来で、計862字となった。戸籍法は「子の名前には常用平易な文字を用いなければならない」と規定し、使える漢字は常用漢字(2136字)と、法務省が規則で定めた人名用漢字に限定している。(共同)


上の記事にあるように、戸 籍法では子供の名前に使える漢字に制限があります。同法50条1項に上の記事の規定があり、同条2項では「常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。」とされています。

この法務省令である戸籍法施行規則の第60条は次のように規定しています。

第六十条  戸籍法第五十条第二項 の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
        一  常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
        二  別表第二に掲げる漢字
        三  片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)

いわゆる人名用漢字は上の「別表第二に掲げる漢字」が該当するのですね。

この別表第二に記載されている漢字を見てみると、こんな漢字を本当に名前に使うのかいなという印象を持つものもあります(ご興味がある方は「人名用漢字 表」でググると出てきますので、見てください)。

では、今回の「巫」という漢字です。
この漢字で最初に思い出すのは、「巫女(みこ)」という熟語だという方が多いのではないでしょうか。庵主はいつも書いているように天邪鬼なので、「巫蠱の乱」とか「巫覡」を思い出してしまいます。

そもそも「巫」という漢字はどのような意味があるのでしょうか?
『角川大字源』(1992年)を見ると、字義としては次のようなものをあげていました(引用は略)。

①みこ。かんなぎ。舞楽を行って神がかりの状態になり、神おろしをし、祈禱によって神意を知り、神託を伝えるひと。もと、男女とも巫といったが、のち、女性を巫、男性を覡と称した。②医師。古代は巫が医を兼ねた。③巫山の略。④姓

諸橋轍次博士の『大漢和辞典』(第2版、1989年)でもほぼ同じような解説がなされていました。
また、白川静博士の『字通』(1996年)では、字の成り立ちについて「工+両手(左右の手)。工は神につかえるときに操る呪具。<中略> その工を左右の手で奉ずる形は巫、神に仕え神意をたしかめる者をいう。」とされた後、派生した意味を「①みこ、かんなぎ、女巫。 ②巫医、シャーマン。 ③誣と通じ、みだりがわしい」とされています。

『角川大字源』や『大漢和辞典』にある舞楽云々というのは、中国後漢の時代の人である許慎が撰した『説文解字』に出ている説明に由来しているようです。

庵主の手元にある『説文解字』(中華書局版)の該当箇所はコチラ↓ 中央左寄りにありますね。 
20150107資料

字義を見てゆくと、神に仕える者という意味がある「巫」を子供の名前に付けるのはどうかという気がしないでもないですが、それ以上に「常用平明な」漢字に限定する戸籍法の規定は、市町村役場の担当者が出席届の名前を手書きで戸籍簿に記入していた時代(異字・誤字の発生のおそれがある?)ならさておき、そろそろ見直しても良いように思います

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Posted on 2015/01/07 Wed. 17:11 [edit]

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2015-01