弁護士vs.司法書士-山梨の戦い 

研究室のある甲府は、天気予報どおり未明から雪が降っています。
少し積もってはいますが、昨年のような大雪になりそうな気配はありません。ということで、雪の中も研究室に登校してきました。

今日の窓からの風景はコチラ↓ 遠くは見えません。
20150130風景1

同じようなアングルでの昨日の景色はコチラ↓ 全然違いますね。
20150129風景

さて、今朝の地元紙・山梨日日新聞社会面に庵主の興味をちょっと引く記事が出ていたので、紹介したいと思います。記事の見出しは、「県司法書士会弁護士“業務”に参入 法的サービス境界なき戦い」でした。

記事の写真はコチラ↓ 全部入りませんでした。
20150130新聞

記事の趣旨は、山梨県司法書士会が裁判外紛争解決手続期間の認証を取得し、民事紛争に関する相談の受付を始めたが、これは山梨県内の弁護士の数が増え、司法書士の数に迫っていること、司法書士の伝統的な業務である登記手続
に弁護士が進出していることから、司法書士会として新しい業務の模索の一環であり、両士業の競争の激化が進むのではないかということです。

法律関係に多少なりとも知識がない人にとっては何のことか、何が問題なのかいまひとつ理解できない話題です。
では基本的なところから。

法的なサービスを提供できる資格はいろいろありますが、最も知られているのは、テレビや映画にもしばしば登場する弁護士です。弁護士法という法律には、弁護士の職務が規定されています。

弁護士法の規定はコチラ↓

(弁護士の職務)
第三条  弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、~<中略>~行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
   2  弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。


いろいろ書かれてはいるのですいが、簡単にいうと、民事・刑事等の訴訟での代理人契約交渉や示談交渉での代理人、あるいは法律相談・意見の作成など、法律について広範な広範な職務領域を有しています。
この職務範囲の広範性と、日本で最難関と言われた司法試験に原則として合格しなければしけないことから、従来から権威ある資格とされてきました。

一方、司法書士は、司法書士試験に合格するか、または裁判所事務官その他の職務に従事した場合に得られる資格になります。司法書士の職務については、司法書士法という法律の第3条に規定されています(少し長いので、リンクを貼っておきました)。
同条の定める主要な業務は、①登記又は供託に関する手続について代理、②法務局や裁判所に提出する書類等の作成、④簡易裁判所における訴訟や和解の代理(140万円以下)、③これらに関する相談)があげられます。 このうち登記に関する業務が伝統的な職務であり、たとえば、土地を購入した時や相続で受け取った時に自分名義に登記をする、会社を設立した時に会社の登記をするなどで、一般の方も司法書士さんに接触する機会があるはずです。また、簡易裁判所の事件(140万円以下の事件)については、弁護士と同様に代理権が付与される場合があり、このような司法書士さんを認定司法書士と呼んだりしています。登記にしても、簡易裁判所での紛争にしても、まさに法律に関する事務を処理するものであり、司法書士資格も法律系の資格の一つされています。

このような司法書士は、税理士や弁理士などとともに、「法律隣接職」と呼ばれることもあります。誰から見て隣接なのかと考えると、失礼な名称のような気もしますね
法律隣接職の職務は原則として、弁護士の職務の一部を行うことから、弁護士と法律隣接職との間には仕事の縄張りについて昔から争いがありました。

かつては県庁所在地以外の地域の中心の町には法務局(登記を管轄する役所)があったため、それらの町には司法書士さんが必ずおり(元公務員として名士扱い)、地域の法律相談に応じていました。その一方で、地方には弁護士の数が少なかった時代が長らく続きました(かつては司法試験の合格者は毎年500人くらいだった)。
その時代には、弁護士は訴訟・複雑な法律問題司法書士は登記およびその他の法律問題(特に不動産取引など)を職務領域としてすみ分けていました。

その後、司法試験の合格者数が増え、地方都市に進出したこと、また、司法書士に簡易裁判所代理権(上の③)が付与されたことから、両者のナワバリ争いが近年激化したとも考えられます。たとえば、ある弁護士事務所などでは、過払い金のTV広告で、「限度額がない」という比較広告を打っていますね。

庵主の親族に司法書士がおり、研究仲間には弁護士が多数いるのですが、彼らの仕事を見ていると、「餅はやはり餅屋」というのが実感です。

今回の県内司法書士会の動きを、法律を市民の身近なものにする、コスト面でも利用しやすくするという観点からは、大いに賛成します。ただし、両士業間で競い合うだけでなく、それぞれが得意分野を確立・協力して、利用者の利便性を向上させることを願っています


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Posted on 2015/01/30 Fri. 14:18 [edit]

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民法(債権関係)改正の要綱仮案(14) 

研究室のある甲府も昨日からの雨があがり、青空がのぞいています。

今朝の研究室の窓からの南アルプスはコチラ↓ 山は雪だったようです。
20150123風景

記事を更新できなかった10日程の間は、大学入試センター試験の梨大実施本部の手伝いやその準備に追われ、無事に試験が終わった後は疲労感に放心しておりました。大学センター試験に関しては、日本各地にある聖域のように見聞したことは「語るなかれ」だそうなので、庵主もコメントできません。ただ、空き時間には他の教員と「あーでもない、こーでもない」という話が出ていたことだけ書いておきます。

明日土曜日の朝から大阪で研究会があり、今日午前中には関西方面に出発するので、今日は前回の記事の「相殺」について非常に簡単に補足的整理をしておきます。

まず、前回の甲さん・乙さん事例を再利用しましょう。

<甲さん・乙さん事例>
甲さんは友人で画廊経営の乙さんから著名画家の絵画を100万円で購入し、その引き渡しを受けたが、代金は未払いであった(=甲さんは乙さんに100万円の代金債務を負っている)。一方、甲さんは乙さんが新しい事業を起こしたときにその運転資金として200万円を貸し付けたが、まだ返済を受けていなかった(=甲さんは乙さんに200万円の貸金債権を有している)。


「相殺」に関する改正について、学者側と実務(特に金融業界)との間で大きな議論になったとされているのが、相殺できる債権・債務を制限的に考えるか(制限説)、あるいは考えないか(無制限説)という点でした。甲さん・乙さん事例を使って、もう少し具体的に考えましょう。

上記の事例で、甲さんは絵画の代金を今年2月末に乙さん支払う約定であり、一方乙さんは貸金を今年4月末に支払う約定であっとします。甲さんの立場からみると、自らの代金債務は貸金債権の回収よりも先に払う義務があり、貸金債権
と自らが負っている代金債務と相殺し、回収できるという期待は持っていないとも評価することができます。
このような場合には、仮に相殺の要件(これは民法505条に定められています)を満たしたとしても、必ずしも相殺を認める必要はない。乙さんの債権者が甲さんの代金債務を差し押さえ、あるいは乙さんが破産したようなとき(=利害関係を有する第三者が現れたとき)には、「相殺の期待」を有しない甲さんの相殺を認める必要はないとも考えられます。学者側にはこのような考え方をする人が多かったのですが、関連する最高裁判例があることものあって、金融実務ではこのような場合でも甲さんの相殺を認めてきました

この問題に関しては、結局結論がでず、今後も解釈に委ねられることになりました。

このように今回の改正でも、学者間あるいは学者と実務家との間で議論が分かれたため、明文化せず、解釈に委ねられるとされた点がいくつかあります。上記の例以外にも、過去の記事で書いた「不安の抗弁権」もその1つです。

今回の改正は、普通の人が民法を読めば解決できることを目標にスタートしたのですが、現実の壁は厚いようです。その分、庵主もご飯を食べさせていただけるんですけれど・・・

Posted on 2015/01/23 Fri. 08:23 [edit]

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民法(債権関係)改正の要綱仮案(13) 

研究室のある甲府は寒さ厳しいのですが、雪が降らないためか、甲信越の区分でいうと比較的穏やかな気候といえるかもしれません。1月に入り少しづつですが、陽光も強くなってきたような感じです。

今朝の研究室からの南アルプスはコチラ↓ 雪景色は見慣れました。
20150114風景

さて、題名のとおり、昨年12月8日の記事依頼久しぶりに「民法(債権関係)改正の要綱仮案」に戻りたいと思います。
来月には仮案の取れた「要綱」が公表されるかもしれないので、ブログを利用した整理ができないまま、次の案の検討に入らなければいけないおそれも出てきました。実務的に利用度の高いものから急ぎ整理してゆきたいと思います。

今回は「第24 相殺」です。

企業間取引では相殺が日常的に利用されています。たとえば、食品卸売会社A社は食品メーカーB社からB社製の製品を仕入れて販売している一方、B社に対しては同社が必要とする原料を納入している場合、A社からB社への支払いとB社からの代金回収をバラバラに行うのではなく、支払日(または締切日)を揃えた上で、支払日(または締切日)に対当額で相殺した上、残額を支払うとの合意がなされることがあります。

しかし、これは「合意相殺」といって、支払い条件に関する合意(契約)に基づく処理であり、民法が規定する相殺(「法定相殺」といいます)とは違うものと考えられています。要綱仮案で問題となる相殺は、上記の例のように合意を基礎とするものではなく、当事者の一方(上の例でいうとA社またはB社)による一方的な通知によって行なわれるものをいいます。

日本では専ら後者のみを規定していますが、一部の外国法ではこの合意相殺と法定相殺を同じく民法に規定しているものもあります。たとえば、中国契約法(合同法)では次のような規定があります。99条が法定相殺、100条が合意相殺に関するものです。

第99条 当事者が互いに弁済期にある債務を負い、その債務の目的物の種類、内容が同じときには、いずれの一方当事者も自己の債務と相手方の債務とを相殺することができる。ただし、法律の規定あるいは契約の性質により相殺ができないときは除く。
    2 <略>
第100条 当事者が互いに債務を負い、目的物の種類、内容が異なるときであっても、双方の協議の一致により相殺することができる。


現行の民法では505条から512条の8か条のうち4か条が改正の対象となっています。ただし、法定相殺のみを規定する現在の考え方は変わっていません。

要綱仮案は内容は以下のとおり↓

第24  相殺
1 相殺禁止の意思表示(民法第505条第2項関係)  <略>

2  不法行為債権等を受働債権とする相殺の禁止(民法第509条関係)
 民法第509条の規律を次のように改めるものとする。
 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から取得したものであるときは、この限りでない。
 (1) 悪意による不法行為に基づく損害賠償に係る債務
 (2) 人の生命又は身体の侵害に基づく損害賠償に係る債務((1)に該当するものを除く。)

3 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺(民法第511条関係)
 民法第511条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる
 (2) (1)の規定にかかわらず、(1)の差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、第三債務者は、当該債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、差押え後に他人の債権を取得したものであるときは、この限りでない。

4  相殺の充当(民法第512条関係)  <略>



《校務の時間になりました。続きはこの後で・・・》

結局日付がかわってしまったので、この後に追記を・・・
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Posted on 2015/01/14 Wed. 14:52 [edit]

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人名用漢字を考える 

新年明けましておめでとうございます。
研究室のある山梨大学では本日から講義が再開しています。教職員は世間並みに月曜日が始業でしたが、庵主は昨日から研究室に登校し、リハビリ中です。

今日の研究室の窓から見える南アルプスはコチラ↓ 見た目の寒さ満点です。
20150107風景

お正月休みには、大先生から命じられたロシア語文献を読む準備としてのロシア語の復習(まとまって勉強するのは20数年ぶりなので、復習とは呼ばないかも・・・)をしつつ、こちらの記事になるものも探していました。しかし、民事法系の話題というのは正月にはあまり表面化しないので、メディアからはアイデアを得られないまま、今日まで更新できずとなりました。

さて、今朝の新聞記事やネットのニュース項目を見ると、人名漢字に「巫」という漢字が追加されたとのニュースが出ていました。

例えば、毎日新聞の電子版の記事はコチラ↓ http://mainichi.jp/select/news/20150107k0000e040151000c.htmlより

法務省は7日、戸籍法施行規則を改正し「巫女」の「巫」の字を人名用漢字に追加した。生まれた子の名前に「巫」を使った出生届を受理されなかった三重県松阪市の夫婦が不服を申し立てた家事審判で勝訴し、確定したため。

 法務省民事局によると、人名用漢字の追加は2009年の「穹」「祷」以来で、計862字となった。戸籍法は「子の名前には常用平易な文字を用いなければならない」と規定し、使える漢字は常用漢字(2136字)と、法務省が規則で定めた人名用漢字に限定している。(共同)


上の記事にあるように、戸 籍法では子供の名前に使える漢字に制限があります。同法50条1項に上の記事の規定があり、同条2項では「常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。」とされています。

この法務省令である戸籍法施行規則の第60条は次のように規定しています。

第六十条  戸籍法第五十条第二項 の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
        一  常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
        二  別表第二に掲げる漢字
        三  片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)

いわゆる人名用漢字は上の「別表第二に掲げる漢字」が該当するのですね。

この別表第二に記載されている漢字を見てみると、こんな漢字を本当に名前に使うのかいなという印象を持つものもあります(ご興味がある方は「人名用漢字 表」でググると出てきますので、見てください)。

では、今回の「巫」という漢字です。
この漢字で最初に思い出すのは、「巫女(みこ)」という熟語だという方が多いのではないでしょうか。庵主はいつも書いているように天邪鬼なので、「巫蠱の乱」とか「巫覡」を思い出してしまいます。

そもそも「巫」という漢字はどのような意味があるのでしょうか?
『角川大字源』(1992年)を見ると、字義としては次のようなものをあげていました(引用は略)。

①みこ。かんなぎ。舞楽を行って神がかりの状態になり、神おろしをし、祈禱によって神意を知り、神託を伝えるひと。もと、男女とも巫といったが、のち、女性を巫、男性を覡と称した。②医師。古代は巫が医を兼ねた。③巫山の略。④姓

諸橋轍次博士の『大漢和辞典』(第2版、1989年)でもほぼ同じような解説がなされていました。
また、白川静博士の『字通』(1996年)では、字の成り立ちについて「工+両手(左右の手)。工は神につかえるときに操る呪具。<中略> その工を左右の手で奉ずる形は巫、神に仕え神意をたしかめる者をいう。」とされた後、派生した意味を「①みこ、かんなぎ、女巫。 ②巫医、シャーマン。 ③誣と通じ、みだりがわしい」とされています。

『角川大字源』や『大漢和辞典』にある舞楽云々というのは、中国後漢の時代の人である許慎が撰した『説文解字』に出ている説明に由来しているようです。

庵主の手元にある『説文解字』(中華書局版)の該当箇所はコチラ↓ 中央左寄りにありますね。 
20150107資料

字義を見てゆくと、神に仕える者という意味がある「巫」を子供の名前に付けるのはどうかという気がしないでもないですが、それ以上に「常用平明な」漢字に限定する戸籍法の規定は、市町村役場の担当者が出席届の名前を手書きで戸籍簿に記入していた時代(異字・誤字の発生のおそれがある?)ならさておき、そろそろ見直しても良いように思います

Posted on 2015/01/07 Wed. 17:11 [edit]

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