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キース・へリングTシャツ著作権損害賠償請求等控訴事件(知財高判H19・4・5) 

全国的にこの冬一番の寒波にさらされていますが、研究室のある甲府も寒い日が続いています。

庵主も先週土曜日に大阪で開催している研究会の忘年会に出席して以来、風邪をひいてしまい、この寒さでなかなか回復しません。今日の甲府は冷たい雨が降っており、

さて、先週の木曜日・金曜日の2日間、債権管理実務研究会(事務局:(株)商事法務)の知人に頼まれ、企業の法務担当者や審査担当者などの方々を前に講演会を行ってきました。
「契約上の履行抗弁権を契約に生かそう!」という趣旨で、同時履行の抗弁権(民法533条)、不可抗力、不安の抗弁権、履行不能の反対給付の履行拒絶権(要綱仮案 第13 危険負担 2 反対給付の履行拒絶権)を取り上げて解説しました。

その中で、不安の抗弁権に関連して解説した知的財産高判平成19・4・5LEX/DB28131086)への反応が良かった印象です。この裁判例はザックと調べた範囲では解説が出ていないようなので、庵主の整理を兼ねて、事案と判旨を紹介しておきたいと思います。

【事 案】
アメリカの著名な画家キース・へリング(1958年-1990年)の著作権等を管理する団体から、日本国内でのサブライセンス付きライセンスを受けたS社(サクラインターナショナル株式会社)が自らのサブライセンシーであるF社(株式会社ファーストリテイリング)およびU社(株式会社ユニクロ)に対しサブライセンス契約違反による損害賠償等を求めた事案です。
サブライセンスを受けたF社(H17/11/1に吸収分割により契約を含む事業はU社が承継)は、キース・へリングのイラスト等を付したTシャツなどを販売していましたが、平成16年(2004年)3月ごろにライセンス域外である中国での広告への当該Tシャツの画像使用や販売疑惑、あるいは無承認チラシの配布その他の紛争が発生したため、S社は平成17年(2005年)2月4日に契約解除を通告し(第1次解除)、同月25日には著作物の使用差止や損害賠償等を求める訴訟を東京地裁に提起しました。
これに対し、F社は同月28日にサブライセンシーの地位にあることを定める仮処分を申し立てる(6月29日請求認容の決定)とともに、4月28日にはサブラインセンス契約に基づき平成18年の1年間の契約更新のオプション権を行使しました。サブライセンス契約によると平成18年度のミニマムロリヤリティ1億円の支払い期限は平成17年9月30日でしたが、F社は仮処分命令発令後もS社による不誠実な対応が継続されており、オプション権が実質的に不能になっているとして、ミニマムロイヤリティを支払言わない旨通知し、支払を拒絶しました。
そのため、S社は10月1日にミニマムロイヤリティの支払いがないことを理由として、契約解除の通知を行いました(第2次解除)。
ユニクロ事件
【争 点】
S社とF社・U社の間の主たる争点は、第1次解除の有効性と(第1次解除が無効とした場合の)第2次解除の有効性となります。これらを判断するにあたっては、第1次解除については、S社が主張するような事実があったか、それが契約解除の原因となるようなものであったかであり、第2次解除については、F社(およびU社)のミニマムライセンスの支払いを停止したことを理由として解除できるかになります。

上記の研修会では、不安の抗弁権の事例としての解説であったので、第2次解除に関連する部分だけを解説しました。このブログでもその予定なので、第1次解除を無効とした理由を簡単にふれておきます。裁判所は著作物を付したTシャツ等が中国向けの広告に出ていたことについて契約違反を認めたものの、契約解除原因となるほどの重大なものとは認めず、その他S社の集する事実はいずれも解除原因にならないとしました。

【判 旨】(第二次解除について)
少し長いですが、該当部分の判旨を引用してみます。
ちなみに控訴人はS社、被控訴人はF社またはU社です。

4 本件サブライセンス契約の第2次解除の有効性の有無
(1) 控訴人は、原判決は、控訴人がチラシの承認のみについて拒絶を表明したにすぎないのに対し、宣伝広告全般を拒否したかのように認定し、さらにはデザイン等に関する承認申請も拒否したかのように認定しているのは誤りである、商品のデザイン等に関する承認申請の問題と、宣伝広告のうちチラシの承認申請の問題とは明確に区別すべきであると主張する。
 継続的取引契約により当事者の一方が先履行義務を負担し、他方が後履行義務を負担する関係にある場合に、契約成立後、後履行義務者による後履行義務の履行が危殆化された場合には、後履行義務の履行が確保されるなど危殆化をもたらした事由を解消すべき事由のない限り、先履行義務者が履行期に履行を拒絶したとしても違法性はないものとすることが、取引上の信義則及び契約当事者間の公平に合致するものと解される。いわゆる不安の抗弁権とは、かかる意味において自己の先履行義務の履行が拒絶できることであると言うことができる。そして、後履行義務の履行が危殆化された場合としては、契約締結当時予想されなかった後履行義務者の財産状態の著しい悪化のほか、後履行義務者が履行の意思を全く有しないことが契約締結後に判明したような場合も含まれると解するのが相当である。
 しかるに、控訴人がチラシの承認申請を拒否したことは、本件のような衣料品等について、チラシへの掲載の有無によって商品の顧客に対する訴求力ないし顧客誘引力に大きな差が生じ得ると考えられることに鑑みれば、それ自体、被控訴人ファーストリテイリングが本件サブライセンス契約に基づいて行う販売を実質的に阻害するものと評価すべきであるし、そうした中で、控訴人が第1次解除の意思表示を行ったことも、被控訴人ファーストリテイリングに対し一切の許諾をしない旨を明確に表示したものといえる。
 以上によれば、控訴人の上記主張は採用できず、第2次解除に対するいわゆる不安の抗弁権は理由がある。
 (2) 控訴人は、被控訴人ファーストリテイリングは、平成17年4月28日の更新オプション権の行使により、平成17年9月30日に最低保証料不払いが確定するまでの約5か月間、同被控訴人の「2006年(平成18年)独占販売のための独占準備権」を享受しており、平成17年9月30日の最低保証料支払期限の前に、既に反対債務の履行を受けているというべきであるから、被控訴人ファーストリテイリングらの平成17年9月30日の平成18年(2006年)分最低保証料の支払義務は、そもそも、被控訴人ファーストリテイリングらの先履行義務でなく、不安の抗弁は成立しないと主張する。
 しかし、控訴人の指摘する「2006年(平成18年)独占販売のための独占準備権」は、そもそも本件サブライセンス契約に規定されていない事項であり、たとえ被控訴人ファーストリテイリングがかかる利益を事実上享受することがあり得るとしても、これはいわば事実上の反射的利益に過ぎないというべきであって、本件サブライセンス契約により生じる契約上の権利ということはできない。そうすると、本件サブライセンス契約上、平成18年1月1日からの販売権に対し、平成17年9月30日が支払期限である平成18年分最低保証料の支払義務が被控訴人ファーストリテイリングの先履行義務になっていることは明らかであるから不安の抗弁権が成立しないということはできない。
 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。


判決ではF社・U社側に「不安の抗弁権」を認めて、ミニマムロイヤリティの支払いを行わなかったことに違法性がない=契約違反にならないとしています。
それに加え、従来は後履行義務者(代金後払いの買主が代表例 )が倒産の状態にあるとか、支払能力を喪失しているようなケースを想定していましたが、それを以外にも履行する意思がない場合(上の例では買主にそもそもお金を払う気がない場合 )にも認めていることが特徴的でした。これは、CISG(ウイーン売買条約-日本も批准国)やUCC(アメリカ統一商法典)などの立場にも類似するものです

不安の抗弁権は、1980年前後に盛んに議論され、裁判例も数多く出ていましたが、議論が出尽くした感があり、民法学の世界では松井先生(松井和彦大阪大学教授)くらいしか最近では研究していないような印象です。
この裁判例の当否は別として、庵主としても少しウオッチを継続する必要性を感じております。

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Posted on 2014/12/04 Thu. 19:15 [edit]

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