民法(債権関係)改正の要綱仮案-横道編その2 

研究室の庵主は寒い甲府から実家のある関西に戻っています。
今日は朝から大神神社(おおみわじんじゃ)へお参りし、その後精華町にある国立国会図書館関西館で資料をチェックしています。

大美和の丘からの二上山方面の遠景はコチラ↓ 二上山は左上の方向です。
20141222風景

国会図書館での状況はコチラ↓ 資料を並べて悦に入る姿がPC画面に・・・
20141222仕事

さて、先週土曜日に大阪で開催された担保法研究会で、潮見佳男京都大学教授が民法(債権関係)改正について、ご報告をされました(潮見先生も一応は研究会メンバーで、終了後の忘年会もちゃんと会費を支払っていただきました)。潮見教授はこの記事のタイトルにもなっている法制審議会民法部会のメンバーとして、議論に参加されているので、なかなか外部から知りえない議論でのニュアンスを語っていただきました。

いくつもの参考になる情報はあったのですが、最も参考になったものの一つとして、民法の授業で改正議論を取り上げるべきか?あるいは現行法で講義をすべきか?、という講義を担当するものとして切実な問題があります。

潮見先生始め、法制審議会の委員の先生方は、今の2年生(関西風には「2回生」)が社会に出た後に使うことになるのは改正後の民法となるとの見通しのもと、昨年あたりの講義から改正法の議論を説明しているとのことでした。

実際、法制審民法部会に提出された資料の中に既に条文案も提示されています(確定稿ではないことに注意!)。具体的には、12月16日開催の第97回部会に提出された部会資料84-2「民法(債権関係)の改正に関する要綱案の原案(その1) 参考資料」を見てください。
また、現在のところ諮問事項ではないそうですが、経過措置に関する資料(部会資料85「民法(債権関係)の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(18)」)が出ていることからも、議論が煮詰まった感がありますね。当初の予定どおり来年の通常国会での議決がなされそうです。

研究室のある梨大では主として民法総則(のしかも一部!)しか講義を担当していないので、改正案に抵触することが少なく、来年に向けての大幅な資料見直しは避けられそうです。一方、来年依頼されている非常勤での講義の方は、改正法で話をしないといけなくなりそうです。
スポンサーサイト

Posted on 2014/12/22 Mon. 14:54 [edit]

CM: 0
TB: --

top △

リニア新幹線着工-どうする山梨 

研究室のある甲府は肌を刺すような寒い朝でした。
名古屋や広島でも大雪との報道がありましたが、甲府盆地ではほとんど雪は降らず、山の白さが増しただけです。

今朝の研究室の窓の空の南アルプスの様子はコチラ↓ 前回の記事の写真より白い部分が広がっています。
20141218風景

山梨大学では年内の講義が今週で終わります。庵主は週末大阪で研究会&忘年会があったり、京都の国会図書館に籠ったりするため、明日午後から年明けまで実家のある関西に戻る予定です。
甲府での年内最後の記事になるので、今日は山梨ネタを1つ書いておきたいと思います。

今朝の山梨日日新聞1面を見ると、リニア新幹線着工の記事が出ていました。

1面はコチラ↓ 社会面にも関連記事があり、けっこう大きな扱いです。
20141218リニア

記事の要旨は、1面が品川で行なわれた工事安全祈願式の様子とJR東海の会長・社長のコメントが出ており、社会面では工事による環境への影響についての住民の懸念-建設残土問題、地下水の大量出水による河川への影響など-が記事になっています。

甲府に暮らしていても、客商売をしているわけではないということもあってか、庵主には全く高揚感はありません。13年後の2027年開業予定ということもあるのかもしれません。
ただ、県政レベルでは、東海道新幹線という東西の大動脈から外れていた山梨にリニア新幹線ができるということで、観光や産業の発展が期待できると大いに盛り上がっているようです。
山梨県のウェブサイト → http://www.pref.yamanashi.jp/machi/kotsu/linear/

天邪鬼な庵主としては、冷たく考えてゆきたいとおもいます。

まず、リニア新幹線の位置づけを考えてみましょう。今日の日本経済新聞企業1面(12版)「リニア、低料金に深謀遠慮」にリニアが完成すれば、ビジネスや生活がどう変わるかという記事が出ていました。その部分を引用してみましょう。

始発で名古屋を出た営業マンが朝8時に東京で会議に出席。午後は名古屋に戻って事務作業をこなし、夜は再び東京でクライアントを接待、11時台の終電で名古屋に帰る--。品川-名古屋間を40分で(現在は最速1時間28分)で結ぶリニアはそんな働き方を可能にする。

日本経済新聞というビジネス・バイアスを考えても、リニア新幹線がビジネス需要を主として考えていることに大きな間違いはないと思います。全線の7割だったか8割だったかがトンネル区間というのも観光客を主たるターゲットとする路線ではないのでしょう(トンネルが多いとされる山陽新幹線でもトンネル区間は5割強!とのこと)。

リニア新幹線が東名間のビジネス客を主たるターゲットとすることから、途中駅となる「新甲府駅」に停車する電車は限られることになります(1時間に1本とのこと)。現在、甲府-東京・新宿間を結ぶ「あずさ」「かいじ」がだいたい30分間隔で運転され、かつ、1時間30分~40分で結ばれていることを考えると、甲府中心部と東京駅周辺や東京のビジネス街あるいは羽田・成田両空港とのアクセスが格段に向上するとはいえないと思われます。

さらに、また、観光資源の富士山北麓・東麓、小淵沢・清里・八ヶ岳方面、勝沼、身延などとのアクセスも見通しが立っているとはいえない状況です。

では、どう考えるのかです。
リニア新幹線を使って多くの人に山梨に来てもらうことという視点を第一とするのではなく、山梨に職・住を構える人たちが東京・名古屋での仕事をこなすために利用しやすくすること-ビジネス駅-を第一に考える必要があると思います。
このようなライフスタイルが可能な産業の育成・導入、アクセスおよび周辺の整備をしなければ、来場・来店者が見込み人数を大きく下回り、閑古鳥の鳴く箱物だけが残ることになります。

最後に、今朝の山梨日日新聞のコラム「風林火山」を紹介しておきます。
横光利一の「頭ならびに腹」という短編を引用し、特別急行列車やそれに乗る人々が沿線の小駅を石のように黙殺しているのと同様に、リニア新幹線に乗る人々が新甲府駅を黙殺するのではないかという懸念を指摘しています。同コラムはまた、山梨に駅ができることへの期待感が「駅さえできれば地域の発展につながるはず」という漠然とした希望が頼りだとしたら心もとないともしています。

庵主の懸念も山梨日日新聞のコラムと同じです。

Posted on 2014/12/18 Thu. 12:43 [edit]

CM: 0
TB: --

top △

民法(債権関係)改正の要綱仮案-横道編 

今日の甲府は快晴になりました。

本日の研究室の窓からの南アルプスはコチラ↓ 山頂方面の雪は来春まで解けないでしょうね。
20141215風景

昨日、史上最低の投票率という酷い選挙が終わりました。
庵主の注目した点は、①沖縄選挙区での自民全敗②共産2.5倍増と“是々非々”政党の後退③若年層の低投票率ですね。それぞれ考えることはあるのですが、今日の記事とは関係ないので、割愛させてもらいます。

さて、これまで12回にわたって整理してきた「民法(債権関係)改正の要綱仮案」ですが、これまでのコメントは庵主の出身からか?学術的ではないなと書いています(2014年11月19日第11回)。
今日は、民法学の高名な研究者である山野目早稲田大学教授がNBLという法学雑誌に連載中の「民法(債権関係)改正のビューポイント」の記載と比べてみます。この雑誌は、企業法務部員や弁護士などの法律実務家向けのものですが、正当な法学者と実務家上がりの法学教員の着眼点(まさにビューポイント!)の違いを感じていて頂ければと思います。

素材としては、公序良俗に関する記述です。

まずは、現行の民法90条の規定と要綱仮案の提案を挙げておきます。

●現行民法90条(公序良俗)
  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
●要綱仮案「第1 公序良俗(民法第90条関係)」
  民法第90条の規律を次のように改めるものとする。
  公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。


これに対し、庵主のコメントは次のとおりでした。

現行の民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」との条文になっています。改正すべき点としては、「反する事項を目的とする」という部分がなくなっています。元々公序は国の法秩序、良俗は性風俗を意味したのですが、現在はもっと広く社会的妥当性を欠く契約その他の行為の効力を認めない規定としてしばしば利用される条項となっています。そのような目的を有する行為、たとえば賭博契約や殺人契約あるいは愛人契約だけでなく、社会的妥当性を欠く動機をもった行為(殺人のために凶器を買う契約)なども本条により無効とされてきました。後者については条文上も明らかになったものと思われます。後者について法理論的な説明は変わってきますが、実務的に大きな変化はないでしょう。


一方、山野目教授のコメントは次のとおりです(NBL1038号(2014年)8-9頁、抄録)。

 <前略>
 法文の本来の読み方を述べるならば、ここの「目的」は、内容と意味が異ならない。そして、これを前提として読むとき、現行の規定が必ずしも誤ったことを述べているものではない。ただし、公序良俗違反を理由として法律行為を無効として判断をするにあたり、厳密な意味における法律行為の中心的な内容のみが問題とされてはこなかった。法律行為がされた経緯も総合的に判断されている。そのことをも視野に含め、誤解のない表現にするため、「事項を目的とする」の文言は削ることがよいと考えられる。
 くわえて、「事項を目的とする」があることにより、別な方面での誤読のおそれもある。盗みをするために合鍵を必要としている盗賊がいる、としよう。合鍵の制作を錠前屋に頼むならば、これは請負契約である。それは、公序良俗に反するものとして無効であろうか。<中略>錠前屋が事情を知らず、注文主が犯罪に用いる“ねらい”を秘めてした契約である場合は、どうか。まさに不法な「事項を目的(=“ねらい”)とする」ものであるから無効ではないか、と読むことは誤りである。<中略>「目的」という言葉は、対象、さらに言えば内容の意味で用いられており(英文法を学ぶ際に登場する「目的語」の“目的”と同じ)、実際、起草者(庵主注:明治時代の現行民法の起草者)が関与して作られた仏訳も、オブジェ(objet)が充(ママ)てられている。しかし、現代は、このように「目的」の語を用いることは少なくなり、ねらい、という意味で用いられることが目につく。<中略>「目的」の語をなくする改正はそのような誤解も減らすことが期待される。


比較するのも山野目先生に失礼なのですが、やはり山野目先生の書かれたものの方が奥行きがありすね。このような学識に裏付けられた内容の豊かさ、奥行きの深さが実務家あがりではなかなか到達できないところです。


Posted on 2014/12/15 Mon. 12:52 [edit]

CM: 0
TB: --

top △

期日前投票に行きます~最高裁裁判官国民審査 

今朝の甲府は少し寒さが緩んでいるよう。
ただし、この週末は日本列島上空に寒波が襲来するようなので、少し心配しています。

今朝拾ってきた大学のヤマナシの実はコチラ↓ 下の新聞が今日の話題です。
20141212ナシ

さて、多額の税金を投入して、年末の忙しい時期に行なう総選挙の意味は未だに理解できませんが、今日の夜にでも、国民の権利であり、責任(義務とは考えていません!-分かりにくいと思いますが、義務と責任を分けて考えるのが、法律屋です。)である選挙権の行使に行ってこようと思います。

衆議院議員については、誰に投票するか、どの党に投票するか、皆さんそれぞれお考えがあると思いますし、庵主もそれなりに考えて投票したいと思います。
そこで今日は、総選挙と同時に行われる、最高裁判所裁判官の国民審査をどうするかという個人的事情で書きながら、整理したいと思います。

最高裁判所はよく「憲法の番人」といわれ、その重要な職務の一つに、国会が制定する法律について憲法に違反していないか判断するというものがあります(違憲立法審査権。憲法81条)。これは国会の多数決原理に基づき制定された法律が少数者の人権(国籍が関係するものとしないものがある)を侵害していないかチェックするという機能を果たしているとされています。
ちなみに、多数決原理で動くのが「民主主義」で、少数者といえどもその権利は擁護されるべきというのが「自由主義」に対応します。どこかの政党は両主義の名前を付けていますが、後者の方を軽ろんじたり、自分の意見と異なる判決を書いた裁判官を選挙で選ばれていないくせにと非難したりする所属議員がいるとの噂を聞いたりしますね。

そのような重要な役割を担う最高裁判所の裁判官は、任命後最初と就任後10年を経過した後の最初の総選挙の際に国民審査およびに付され、罷免を可とする投票が多数の場合は罷免されるとされています(憲法79条2項、3項)。そのため、国民としては誰について罷免を可とすべきか(「×」を書くか)を考えないといけません。

最近ではネット上でもいろいろな立場から意見表明がなされています。

たとえば、一票の格差について裁判を行っている最大の弁護士グループが属する「一人一票実現国民会議」は、そのウェブサイトで罷免を可とすべき裁判官を名指ししています。そこでは今回国民審査を受ける5人の裁判官のうち、
木内道祥裁判官(弁護士出身)、池上政幸裁判官(検察官出身)、山崎敏充裁判官(裁判官出身)
の3名について罷免を可とする(「×」をつける)裁判官として挙げています。ただし、これは2013年7月の参議院選挙と2012年12月の衆議院選挙における一票の格差に関する最高裁の裁判での態度のみを元にされた主張なので、その点は注意が必要です。

また、ジャーナリストの江川紹子氏は分からないなら、知らない人に白紙委任をすべきではないので、「×」を付けなさいとアドバイスしています(http://politas.jp/articles/231。実施後リンク切れのおそれあり)。

ネットを検索すると、みなさん思い思いに提案されているようです。
庵主も一票の格差裁判以外の状況も勘案し、自由主義の最後の砦として期待できるかを考えながら、何人かに×を予定ししております。

最後に、国民審査の制度や判断の方法について、首都大学東京の木村草太准教授(憲法学)が沖縄タイムズに分かりやすく解説されているので、参考になります。お時間があれば見ておくと参考になります。 
URL(実施後リンク切れのあそれあり)⇒ https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=94132

-- 続きを読む --

Posted on 2014/12/12 Fri. 12:34 [edit]

CM: 0
TB: --

top △

民法(債権関係)改正の要綱仮案(12) 

先週末からの寒波が一段落しましたが、やはり寒い甲府です。

研究室から見える南アルプスの雪の様子はコチラ↓ 白い部分が下がっています。
20141208風景

今日は、予告通り「民法(債権関係)改正の要綱仮案」の「第27 契約の成立」のところです。これはこのシリーズ(10)のところとも多少関係があります。

要綱仮案の内容はコチラ↓

第27 契約の成立
1 申込みと承諾
 申込みと承諾について、次のような規律を設けるものとする。
 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 承諾の期間の定めのある申込み(民法第521条第1項・第522条関係)
 民法第521条第1項及び第522条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
 (2) 民法第522条を削除するものとする。

3 承諾の期間の定めのない申込み(民法第524条関係)
 民法第524条の規律を次のように改めるものとする。
 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。

4 対話者間における申込み
 対話者間の申込みについて、次のような規律を設けるものとする。
 (1) 承諾の期間を定めないで対話者に対してした申込みは、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。
 (2) 申込者が(1)の申込みに対して対話が継続している間に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない。

5 申込者の死亡等(民法第525条関係)  <略>
 
6 契約の成立時期(民法第526条第1項・第527条関係)
(1) 民法第526条第1項を削除するものとする。
(2) 民法第527条を削除するものとする。

7 懸賞広告  <略> 



まず、要綱仮案の最初は、契約は申込みに対して承諾したときに成立するとしています(1)。このこと自体は明文に規定がありませんでしたが、当然のこととして受け止められていました。教室事例(学生の理解のために使う事例)では、AがB所有の骨董品の壺を1億円で買いたいと申し入れ(申込み)、Bが売り渡すと言った(承諾)、などと説明します。この場合、申込みと承諾は主要な点で一致していなければならないとされています(ミラーイメージルール)。
しかし、世の中を見ると、必ずしもこのような明確なケースばかりではなく、自動販売機でジュースを買う場合はどうか、タクシーの客待ちはどうか、など分析的に理解しないといけないものもあります。
さらに、講義では申込みに類する概念として「申込みの誘引」というものも説明します。たとえば、内田貴の教科書では、ハンバーガー店の店員募集の広告があげられ、この公告を見て、応募しても必ず雇用契約が成立するわけではなく、広告を申込みの誘因、応募を申込みとしています。

次に、申し込んだ側がその後でシマッタと思った場合、承諾期間(申込みを承諾するかどうかの回答をする期間)を設けているかどうかで分けています(2、3)。このような規律は現行民法にもありますが、今回の改正の特徴は、撤回(申込みを取り下げる)の留保をした場合の明文の規律を置いたことです。相手方が少し不安定になる感じを受けなくはないですが、当然のことといえばそれまでです。

申込みについては、対話者間(面と向かったやりとりが典型。電話会議やSNSの場合も該当するとは思いますが、限界事例は今後考えないといけません)の申込みについての規律が置かれました(4)。商法には、商人である対話者間の申し込みについての規定があり、申し込みを受けた者が直ちに承諾しなかったときは、申し込みの効力が失われるとされています(商法507条)。要綱仮案では、対話中に申し込みの撤回ができる旨の規定が置くとするほか、対話終了後も申し込みの効力を失わない旨の表示を置くことができるとしています。
商法では迅速性を重んじているので、紋切り型の規定となっていますが、現実の世界では商人間(企業間など)で承諾の有無を一定の期間中に回答すればよいとすることもあるので、民商法でほぼ同一の規律で処理されることになると言っても過言ではないと思います。

最後に、契約の成立です(6)ですが、このシリーズ(10)でも触れたように、合意のみによって成立する契約が基本形です。その合意の時点が、現行民法では承諾の通知を発信したときでしたが、その特則がなくなり、承諾が通知が到着したときになります。その関係で、承諾通知の延着の場合の規律がはずされています。
先ほどの教室事例でいうと、Bは骨董品の壷を買い受けるとの返事を手紙で送ったが、現行法なら送った時点で原則契約が成立していのが、要綱仮案の考え方では手紙が到着したときに変わります。

<もう少し続きます。>

Posted on 2014/12/08 Mon. 17:26 [edit]

CM: 0
TB: --

top △

キース・へリングTシャツ著作権損害賠償請求等控訴事件(知財高判H19・4・5) 

全国的にこの冬一番の寒波にさらされていますが、研究室のある甲府も寒い日が続いています。

庵主も先週土曜日に大阪で開催している研究会の忘年会に出席して以来、風邪をひいてしまい、この寒さでなかなか回復しません。今日の甲府は冷たい雨が降っており、

さて、先週の木曜日・金曜日の2日間、債権管理実務研究会(事務局:(株)商事法務)の知人に頼まれ、企業の法務担当者や審査担当者などの方々を前に講演会を行ってきました。
「契約上の履行抗弁権を契約に生かそう!」という趣旨で、同時履行の抗弁権(民法533条)、不可抗力、不安の抗弁権、履行不能の反対給付の履行拒絶権(要綱仮案 第13 危険負担 2 反対給付の履行拒絶権)を取り上げて解説しました。

その中で、不安の抗弁権に関連して解説した知的財産高判平成19・4・5LEX/DB28131086)への反応が良かった印象です。この裁判例はザックと調べた範囲では解説が出ていないようなので、庵主の整理を兼ねて、事案と判旨を紹介しておきたいと思います。

【事 案】
アメリカの著名な画家キース・へリング(1958年-1990年)の著作権等を管理する団体から、日本国内でのサブライセンス付きライセンスを受けたS社(サクラインターナショナル株式会社)が自らのサブライセンシーであるF社(株式会社ファーストリテイリング)およびU社(株式会社ユニクロ)に対しサブライセンス契約違反による損害賠償等を求めた事案です。
サブライセンスを受けたF社(H17/11/1に吸収分割により契約を含む事業はU社が承継)は、キース・へリングのイラスト等を付したTシャツなどを販売していましたが、平成16年(2004年)3月ごろにライセンス域外である中国での広告への当該Tシャツの画像使用や販売疑惑、あるいは無承認チラシの配布その他の紛争が発生したため、S社は平成17年(2005年)2月4日に契約解除を通告し(第1次解除)、同月25日には著作物の使用差止や損害賠償等を求める訴訟を東京地裁に提起しました。
これに対し、F社は同月28日にサブライセンシーの地位にあることを定める仮処分を申し立てる(6月29日請求認容の決定)とともに、4月28日にはサブラインセンス契約に基づき平成18年の1年間の契約更新のオプション権を行使しました。サブライセンス契約によると平成18年度のミニマムロリヤリティ1億円の支払い期限は平成17年9月30日でしたが、F社は仮処分命令発令後もS社による不誠実な対応が継続されており、オプション権が実質的に不能になっているとして、ミニマムロイヤリティを支払言わない旨通知し、支払を拒絶しました。
そのため、S社は10月1日にミニマムロイヤリティの支払いがないことを理由として、契約解除の通知を行いました(第2次解除)。
ユニクロ事件
【争 点】
S社とF社・U社の間の主たる争点は、第1次解除の有効性と(第1次解除が無効とした場合の)第2次解除の有効性となります。これらを判断するにあたっては、第1次解除については、S社が主張するような事実があったか、それが契約解除の原因となるようなものであったかであり、第2次解除については、F社(およびU社)のミニマムライセンスの支払いを停止したことを理由として解除できるかになります。

上記の研修会では、不安の抗弁権の事例としての解説であったので、第2次解除に関連する部分だけを解説しました。このブログでもその予定なので、第1次解除を無効とした理由を簡単にふれておきます。裁判所は著作物を付したTシャツ等が中国向けの広告に出ていたことについて契約違反を認めたものの、契約解除原因となるほどの重大なものとは認めず、その他S社の集する事実はいずれも解除原因にならないとしました。

【判 旨】(第二次解除について)
少し長いですが、該当部分の判旨を引用してみます。
ちなみに控訴人はS社、被控訴人はF社またはU社です。

4 本件サブライセンス契約の第2次解除の有効性の有無
(1) 控訴人は、原判決は、控訴人がチラシの承認のみについて拒絶を表明したにすぎないのに対し、宣伝広告全般を拒否したかのように認定し、さらにはデザイン等に関する承認申請も拒否したかのように認定しているのは誤りである、商品のデザイン等に関する承認申請の問題と、宣伝広告のうちチラシの承認申請の問題とは明確に区別すべきであると主張する。
 継続的取引契約により当事者の一方が先履行義務を負担し、他方が後履行義務を負担する関係にある場合に、契約成立後、後履行義務者による後履行義務の履行が危殆化された場合には、後履行義務の履行が確保されるなど危殆化をもたらした事由を解消すべき事由のない限り、先履行義務者が履行期に履行を拒絶したとしても違法性はないものとすることが、取引上の信義則及び契約当事者間の公平に合致するものと解される。いわゆる不安の抗弁権とは、かかる意味において自己の先履行義務の履行が拒絶できることであると言うことができる。そして、後履行義務の履行が危殆化された場合としては、契約締結当時予想されなかった後履行義務者の財産状態の著しい悪化のほか、後履行義務者が履行の意思を全く有しないことが契約締結後に判明したような場合も含まれると解するのが相当である。
 しかるに、控訴人がチラシの承認申請を拒否したことは、本件のような衣料品等について、チラシへの掲載の有無によって商品の顧客に対する訴求力ないし顧客誘引力に大きな差が生じ得ると考えられることに鑑みれば、それ自体、被控訴人ファーストリテイリングが本件サブライセンス契約に基づいて行う販売を実質的に阻害するものと評価すべきであるし、そうした中で、控訴人が第1次解除の意思表示を行ったことも、被控訴人ファーストリテイリングに対し一切の許諾をしない旨を明確に表示したものといえる。
 以上によれば、控訴人の上記主張は採用できず、第2次解除に対するいわゆる不安の抗弁権は理由がある。
 (2) 控訴人は、被控訴人ファーストリテイリングは、平成17年4月28日の更新オプション権の行使により、平成17年9月30日に最低保証料不払いが確定するまでの約5か月間、同被控訴人の「2006年(平成18年)独占販売のための独占準備権」を享受しており、平成17年9月30日の最低保証料支払期限の前に、既に反対債務の履行を受けているというべきであるから、被控訴人ファーストリテイリングらの平成17年9月30日の平成18年(2006年)分最低保証料の支払義務は、そもそも、被控訴人ファーストリテイリングらの先履行義務でなく、不安の抗弁は成立しないと主張する。
 しかし、控訴人の指摘する「2006年(平成18年)独占販売のための独占準備権」は、そもそも本件サブライセンス契約に規定されていない事項であり、たとえ被控訴人ファーストリテイリングがかかる利益を事実上享受することがあり得るとしても、これはいわば事実上の反射的利益に過ぎないというべきであって、本件サブライセンス契約により生じる契約上の権利ということはできない。そうすると、本件サブライセンス契約上、平成18年1月1日からの販売権に対し、平成17年9月30日が支払期限である平成18年分最低保証料の支払義務が被控訴人ファーストリテイリングの先履行義務になっていることは明らかであるから不安の抗弁権が成立しないということはできない。
 以上によれば、控訴人の上記主張は採用することができない。


判決ではF社・U社側に「不安の抗弁権」を認めて、ミニマムロイヤリティの支払いを行わなかったことに違法性がない=契約違反にならないとしています。
それに加え、従来は後履行義務者(代金後払いの買主が代表例 )が倒産の状態にあるとか、支払能力を喪失しているようなケースを想定していましたが、それを以外にも履行する意思がない場合(上の例では買主にそもそもお金を払う気がない場合 )にも認めていることが特徴的でした。これは、CISG(ウイーン売買条約-日本も批准国)やUCC(アメリカ統一商法典)などの立場にも類似するものです

不安の抗弁権は、1980年前後に盛んに議論され、裁判例も数多く出ていましたが、議論が出尽くした感があり、民法学の世界では松井先生(松井和彦大阪大学教授)くらいしか最近では研究していないような印象です。
この裁判例の当否は別として、庵主としても少しウオッチを継続する必要性を感じております。

Posted on 2014/12/04 Thu. 19:15 [edit]

CM: 0
TB: --

top △

2014-12