民法(債権関係)改正の要綱仮案(9) 

ここ数日、研究室のある甲府も朝夕寒くなってきました。

研究室の窓から見える秋の景色はコチラ↓ 少し南アルプスも色づいてきました。
20141028風景

さて、今日は要綱仮案「第35 請負」です。
請負というと、一般市民に関係しそうなものとしては、自宅の建築請負契約が代表的です。企業にいると、自社製品の製造を委託したり、ソフトウエアや企業ウエブサイトの制作を委託したりとしばしば利用される契約ですが、その他にも派遣・雇用ですべき普通の業務を規制逃れのためにする請負契約などもあります。大学では研究委託に請負契約のものもあります。

まずは、要綱仮案の内容を確認しておきましょう。

第35 請負
1 仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権  <略>

2 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任
(1) 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の修補請求権(民法第634条第1項関係)
 民法第634条第1項の規律を次のように改めるものとする。
 仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、目的物の修補を請求することができる。
(2) 仕事の目的物が契約の内容に適合しないことを理由とする解除(民法第635条関係)  <略>
(3) 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の注文者の権利の期間制限(民法第637条関係)
 民法第637条の規律を次のように改めるものとする。
 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡した場合(引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合)において、注文者がその不適合の事実を知った時から1年以内に当該事実を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由とする修補の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人が引渡しの時(引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)に目的物が契約の内容に適合しないものであることを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときは、この限りでない。
(4) 仕事の目的物である土地工作物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任の存続期間(民法第638条関係) 
 民法第638条を削除するものとする。

3 注文者についての破産手続の開始による解除(民法第642条関係)  <略>


まず、2(1)では、仕事の目的の不適合の責任について(従来の瑕疵担保責任)のうち修補義務について、現行法は「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するとき」には修補義務は追わない-損賠賠償は負う-こととされていましたが、この例外を明文の規定から外すという提案です。
その趣旨は、このような場合にも修補の義務を負うとするのではなく、社会通念上修補可能かどうかを一般原則に委ねるとされています。

請負人に修補を求めるのか、あるいは損害賠償で決着をつけるべきなのかは、注文主側に選択権がある場合は良いのですが、特殊な機械器具のように請負人にしか修補ができない場合が問題になります。その場合は、上記の例外規定が外れた方が注文主側にとってはメリットがあるでしょう。逆に、修補に過分な費用が必要な場合でも、修補を請求されるおそがある(現行法でも例外にあたるかを証明するのは請負人の責任)ので、事業者の場合は、契約で何らかの手当てをしておく必要がありそうですね。

次に、2(3)に関し、現行法637条では、「引き渡し時から1年」または「仕事の完成時から1年」となっていましたが、要綱仮案では「不適合の事実を知った時から1年」になっています。売買の規律などと合わせと思われるのですが、引き渡しから1年を越えても発見できないような不適合があれば(どんな不適合かはすぐには思いつきませんが・・・)、現行法より注文主の保護が暑くなります。
また、同(4)では、民法638条を削除するとされていますが、同条の内容は次のとおりです。

第六百三十八条  建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。
          2  <略>


単純に比較すると、要綱仮案の提案はかなり短くなっていますね。
ただし、住宅の建築に関しては、既に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」があって、実務はこちらの法律に従っていますし、各社がサービスとしての品質保証にも力を入れているので、あまり問題になるとは思えません。
むしろ、事業者間の契約実務に影響があるかもしれません。要綱仮案通りに民法が改正された場合でも、企業の契約実務担当者としては旧法の規定を勉強しておく必要があると思われます。

<つづく>
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Posted on 2014/10/29 Wed. 15:34 [edit]

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特許権は会社のものか?-特許法の改正議論 

今日の甲府は秋晴れの過ごしやすい天気になっています。

今朝の研究室の窓からの南アルプスはコチラ↓ 久しぶりのアップです。
20141024風景

昨日、プロ野球ドラフト会議も終わり、いよいよ秋が深まってくる予感です。
研究室の庵主の出身校である京都大学から初のプロ野球選手が出るということで話題になっていましたが、今朝のニュースでは、三井物産から就職の内定をもらっていたこと、物産はドラフトの結果まで最終回答を待ってくれていたとのことでした。

ヤフーニュースの記事(スポーツ報知)はコチラ↓ ちょっと長かったので、抄録にしました。

 創部116年の京大から、初のプロ野球選手が誕生する。現役合格して工学部に在籍する最速149キロ右腕の田中英祐投手(22)がロッテの2位指名を受けた。大手総合商社・三井物産の就職内定を辞退し、プロの世界へ飛び込む決意を口にした。またロッテは、1位指名で大学NO1内野手の早大主将、中村奨吾(22)を一本釣りした。
 <中略>
 内定企業へのおわびもあった。「指名がなかった場合、総合商社の三井物産さんに内定をいただいていた。この時期までプロと迷っている僕に選択肢を残していただいたので、この場を借りて『ありがとうございます』と言いたいです」と感謝を示した。
 <後略>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141024-00000022-sph-baseより


庵主も新卒から4年ほど三井物産にお世話になっていたので、何となく感じるのですが、物産にはある種余裕があって、「待つ」ことができるんだと思います。例えば、白黒をはっきりつけろと企業側が求めた場合(こんな企業の方が多い?)、田中投手の場合もきっと早い時期に断らざるを得なかったと思います。
この件でもう一つ思い出したことは、東京六大学の野球部出身の庵主の物産時代の同期が、本気かどうかわかりませんが、「本当はプロ野球の方が第一志望だっと」と言っていたことです。

さて、今日は前振りが長くなりましたが、特許法の話題です。
最近新聞などで、企業の役員・従業員がした発明に基づく特許権の帰属について、特許法を改正する動きが報じられています。今朝の日経新聞(経済面)にも記事が出ていました。

記事はコチラ↓
20141024記事1

改正の趣旨としては、業務として行った発明であっても、現行法では発明者個人の帰属になっており、企業はそれを有償で取得した後に製品の生産に利用しているので、譲渡の対価をめぐって紛争が生じるリスクがあり、発明者への報償義務を条件に最初から企業に特許権を取得させるか、または現行法通りかの選択を認めるようにするということのようです。前者は大手企業向け、後者は報償義務規定を設けることが難しい中小企業向けとのことです。

先にノーベル賞を受賞した中村修二カリフォルニア大学教授は「絶対反対」を表明しているようですが、考え方の相違なので、改正法のような対処の仕方も理屈としては存在します。ただ、庵主が懸念をしているのは、現行法の規定について、あまりに簡略化された説明が目につくことです。

前提として、特許権がどのように取得されるかをみてみましょう。
発明→発明者に「特許を受ける権利」を取得→特許出願・審査→登録=特許権成立
となります。

この発明が職務の上で行われた場合(今回の改正で問題となっているケース)では、特許法に規定があります。

(職務発明)
第三十五条  使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は 地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
2  <略>
3  従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ<中略>たときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
4  契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。
5  前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。


ある程度の規模の企業では、通常就業規則などで、職務発明についての「特許を受ける権利」を企業に譲渡させ、企業の判断で出願を行っている場合が多いと推測します。この譲渡の段階では、製品化もされていませんし、利益を生むかどうかわからない状況なので、数万円程度の対価が支払われているようです。

普通の従業員なら、職務発明に該当するものを、就業規則違反(場合によっては不正競争防止法上の営業秘密漏えい罪に該当)にあたる危険性が高い中で、企業に断りなく勝手に出願することは考えづらいです。

上の記事の図(拡大)はコチラ↓ 誤解を招く図かもしれません。
20141024新聞2

そのように考えると、従業員と会社で紛争が生じるのは、むしろ特許を受ける権利を譲渡後に、大きな利益を生んだ場合になります。確かに、現行法35条3~5項は譲渡時の対価を想定しており、この問題に適切な回答を与えていません。

今回の改正では、報償義務を負うことが条件になっており、これが上記の問題の解決策の新設を意味することになるのでしょうが、必ずしも発明者に特許を受ける権利が帰属するという考え方を変更する理論的必然性はないように思えます。

庵主としてはこのような場合、企業側が主張する「国際競争力の弱くなる」や「訴訟リスクが高い」という理由には、疑いをもってしまいます。

Posted on 2014/10/24 Fri. 14:10 [edit]

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民法(債権関係)改正の要綱仮案(8) 

甲府は台風一過の晴天です。ただ強い風が吹いており、台風の影響が完全になくなってはいません。

今朝の研究室の窓からの様子はコチラ↓ 秋の気配がしなくもなし・・・
20141014風景

さて、延々と続いていますが、今日も民法(債権関係)改正の要綱仮案の確認作業です。研究室の庵主は、先週末には中央大学(八王子)で開催された日本私法学会で、早稲田大学の先生グループによる残る解釈上の問題点についてのワークショップに参加してきました。法学者が失業するような法律はなかなかできないようです。

今回は、「第33 賃貸借」の続きです。さっそく要綱仮案の続き(7から)を引用してみましょう。

7 敷金
 敷金について、次のような規律を設けるものとする。
 (1) 賃貸人は、敷金(いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この7において同じ。)を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
 (2) 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときは、敷金を当該債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金を当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

8 賃貸物の修繕等(民法第606条第1項関係) <略>

9 減収による賃料の減額請求等(民法第609条・第610条関係) <略>

10 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(民法第611条関係) <略>

11 転貸の効果(民法第613条関係) <略>

12 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了 <略>

13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係)
 民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
 (2) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
 (3) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(3)において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

14 損害賠償の請求権に関する期間制限(民法第621条・第600条関係) <略>


まずは、7 敷金に関する規律の新設です。
(1)の敷金の定義の新設は新聞などでも報道されていました。実際、判例・学説では、概ね上記のような定義をしていたのですが、明文の規定がなかったのです。不動産実務的には大きな問題が生じる箇所ではないです。ただ、民法の試験で定義が正確に理解できているかとういう試験問題は出しにくくなりました。
むしろ(2)の方が実務上影響が大きいかもしれません。借主(賃借人)から貸主(賃貸人。家主・地主など)に対し敷金から充当してくれとは権利としては言えないとの規定ですから、たとえば、家賃の支払い時にたまたまお金がない借主が賃貸人に対して「今月分の家賃は取りあえず敷金から充当しておいて下さい」とか、貸主が倒産して、敷金が返ってこない危険があるときに借主が賃料をわざと滞納するとか認められるのかが問題になります。判例の動向から退去=賃貸借の終了が前提なら認められると思いますが、継続的に賃借したいときは難しいしょう。

次に13 賃貸借終了時の原状回復についての規定です。
現行の規定でも、「借主は、借用物を現状に復して、これに附属させた物を収去することができる」(民法598条、同616条)とされています。これは建具や造作が高額であったとの歴史的な問題もあるのですが、現在では収去義務とする方が一般的だと考えているのでしょう。
さらに重要なのは、従来から度々紛争となっていた(3)の賃借物の損耗の負担についてです。
(3)の本文は従来判例・学説あるいは国土交通省(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」 http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html。民間賃貸住宅を対象)の考え方に沿ったものになっています。賃料は、損料とも言われるように、貸主の通常の使用で損耗・毀損したものの減価分を含んでおり、終了時に改めて貸主からその分を徴収することは二重取りになるという考え方です。
しかし、実際は特約でその一部または全部を貸主側に負担させた場合があり、紛争が生じていました。もちろん特約をすること自体は禁止されていないと考えられているので、特約=無効・違法という訳ではありませんでしたし、今後もそのように考えられます。通常人間の合理的な約定基準として、(3)の規律が置かれることは意義のあることなので、(3)の中身を整理しておきましょう。
 →「借主が賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷」のうち
  ①通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化 → 貸主負担
  ②上記①以外のもののうち、貸主の責めに帰すことができない事由によるもの → 貸主負担
  ③上記①②以外のもの → 借主負担

結局、借主が負担すべきものは、特約がない限り、注意を怠って付けたキズや放置した劣化などに限定されることになります。最近目に付く、退去時のハウスクリーニングや鍵の交換費用ですが、民法上の原則は貸主負担となります。もちろん、喫煙や子供の落書きなどがあればハウスクリーニング費用の一部を特約なくとも請求できますし、また、鍵を紛失した場合の交換費用も請求することができると考えられます。
不動産を借りる場合、上記③以外の負担が約定されているときは、その分賃料に上乗せして他物件と比較しなければなりません。

<どこまで続くからしら>

Posted on 2014/10/14 Tue. 15:27 [edit]

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民法(債権関係)改正の要綱仮案(7) 

台風一過で、昼前から甲府も日がさしています。
研究室から見える南アルプスも雨上がりの風情です。

南アルプスの様子はコチラ↓ 西日の当たる部屋なので、逆光ですいません。
20141006風景


またまた10日程このブログも更新できませんでしたが、先週から始まった講義の準備や東京に行っていたりしたので、ついつい手が及びませんでした。

先週末の東京でのイベントの様子はコチラ↓ 浅草助六の宿での小唄宴会です。
20141003小唄


さて、久しぶりに民法(債権関係)改正の要綱仮案の確認作業を行いましょう。
予告通り、要綱仮案「第33 賃貸借」です。少し量が多いので、分けて引用してみましょう。

第33 賃貸借
1 賃貸借の成立(民法第601条関係) <略>

2 短期賃貸借(民法第602条関係)  <略>

3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)  <略>

4 不動産賃貸借の対抗力、賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)
 民法第605条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
 (2) 不動産の賃借人が当該不動産の譲受人に賃貸借を対抗することができるときは、当該不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
 (3) (2)の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及び当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
 (4) (2)又は(3)後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
 (5) (2)又は(3)後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、7(1)に規定する敷金の返還に係る債務及び民法第608条に規定する費用の償還に係る債務は、譲受人又はその承継人に移転する。

5 合意による賃貸人たる地位の移転  <略>

6 不動産の賃借人による妨害排除等請求権  <略> 



まず、賃貸借は、他人から物を有償で借りる契約類型です。建物を建てるために土地を借りたり、家を借りるのは主として借地借家法という法律が借主保護のためにありますが、その法律で決めていない点などは、民法に戻って解釈されます。それ以外の目的での土地や不動産でない物の貸し借りは、原則として民法の賃貸借の規定が適用されます。

今回とりあげるのは、しばしば紛争になる、不動産貸主の変更の場合の規律です。貸家の例で考えてみましょう。家の借主Aさんは家の所有者Bさんから、一軒家・甲を借りたとします。その後、Bさんが何らかの事情でCさんにこの家を譲渡した場合、Aさん、Bさん、Cさんそれぞれの関係はどうなるのでしょうか。

古い時代は、「売買は貸借を破る」といわれ、CさんはAさんを原則として追い出すことができました。ただ、AさんがBさんの協力を得て、借りていることを不動産登記していた場合は、Aさんの賃借の権利はCさんに主張でき、そのまま利用し続けられるという条文になっていました(民法605条)。
実際は、Bさんが登記に協力することはなく、原則通り追い出される人が多かったため、土地を借りた場合は、建物の登記をしたとき(1909年・旧建物保護法。現・借地借家法10条)、建物を借りた場合は、建物の引き渡しを受けたとき(1921年・旧借家法。現・借地借家法31条)には、賃借権を買主に主張できるとされました。

上記要綱仮案では(1)が民法の現在の規定とほとんど変わっておらず、このルールは踏襲されいると考えられます。そこで、上記の設例でも、AさんはCさんに対し賃借権を主張でき、借り続けることができます。

それ以外の問題としては、だれに家賃を払うのかがあります。これについては、(2)~(3)に定められています。BさんとCさんが、Bさんを賃貸人として留保するとし、BC間で賃貸借契約を締結する場合は、BC間の賃貸借契約が終了するまで、AさんはBさんに家賃を払うことになります。Bさんを不動産所有者、Cさんを不動産ファンドとする取引では、このような合意がしばしばなされています。なぜなら、Cさんはこの建物の賃料収入のみに興味があり、Aさんのような賃借人と関係を持ちたいと思っていないからです。
これらの点は、学説や判例で議論があったところなので、上記の規律を設けたものです。

次に(4)では、賃貸人がBさんからCさんに移転したとき、Aさんはすぐに賃料の支払先を切り替えないといけないのでしょうか?
これは過去に判例もあり、建物の所有名義がCさんに移ってからとなります。これは従来の考え方を明文化したものです。

最後に(5)は敷金等の移転時期ですが、次回見るように敷金は家賃等の担保ですから、賃貸人の地位にある人に移転します。これについて、特約が可能かは今後検討してゆかなければならないところです。

<まだまだ終わらないよ>

Posted on 2014/10/06 Mon. 17:23 [edit]

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2014-10