甲府地裁平成民事判例の紹介(12・完)-平成27年10月6日判決 

月曜日に前期試験の発表も終わり、今週末の後期試験の間の庶務処理週間の庵主の研究室です。

今朝の南アルプスの様子はコチラ↓ 久しぶりですね。
20170308風景

さて、今日は「甲府地裁平成民事裁判例の紹介」の最終回です。
庵主が使っている判例システムで見たところ、比較的おもしろ気なものが出尽くした感があるので、一旦終了とさせてもらいます。今後は、何かあれば的に紹介したいと思います。

今日の裁判例は、発注を受けられると思って、機械も導入した会社が期待した発注を受けられなかったことを原因として損害賠償を求めた甲府地裁平成27年10月6日判決です。
このような事案は、訴訟にまで至るかどうかは別として、お互いに都合のよいビジネストークの中でしばしば発生するおそれのあるものです。山梨特有の事案ではないものの、ありがちな民事事件としてとりあげておきたいと思います。

【事案】
 原告X社は雑穀類の精白加工・販売等を行う株式会社であり、被告Y社は精麦、精米、製粉、製麺その他各種食品類の製造加工等を行う株式会社である。平成14年(2002年)以降、X社はY社から技術・人材の支援を受け、主たる事業を雑穀事業に転換し、そのころから雑穀製品についてY社を委託先、X社を受託先とする製造委託取引を行っている(この当時Y社はX社の49%の株式を保有し、役員も派遣していた)。今回問題となった取引については平成16年4月1日付けで取引基本契約書も締結している。
 訴外A社が雑穀製品のテレビCMを放映するようになり、その影響でY社の販売する雑穀製品の売り上げも伸びてきた。そこで、Y社は平成21年初頭ごろ拡大販売計画を立て、新商品(以下「本件製品」という)の販売を同年秋に販売することとした。しかしながら、Y社工場の製造能力は当該計画の販売計画を下回り、製造能力の増強に時間を要するため、Y社はX社に対し上記計画を示し、製品の製造および新たな包装機械の設置が可能かについて検討を依頼した。また、同年5月および6月にX社はY社から平成21年度ないし平成23年度の製造重量および金額を記載した商品一覧表および雑穀事業の見通しを記載した書面を交付され、これらに基づいて自社の生産能力を検証したところ、包装機器の生産能力が不足するとして、新たな包装機器(以下「本件包装機械等」という)の設置を決定した。平成21年9月には本件商品(Y社製造)の販売が開始され、その後複数回開催されたY社の会議において、X社への製造委託開始時期を平成22年4月とすることが検討されていた。
 しかし、訴外A社のテレビCMは放送されず、本件商品の販売は商品一覧表に記載された内容を大きく下回り、Y社は従来からX社の製造委託している製品の発注(一部は本件包装機械が製造された)を除き、平成21年から平成23年の間製造委託の発注は行われなかった。その間、製造委託や本件包装機械に関する要望や交渉がX社・Y社間で交わされたものの、交渉は決裂し、上記取引基本契約もY社の申し出により終了した。
 そこで、X社がY社に対して、売買契約の債務不履行(主位的主張)または信義則上の注意義務違反(予備的主張)に基づく損害賠償を求めたものが本件である。

【判決】一部認容
1.債務不履行
 商品一覧表を提示し、X社が本件包装機械等の購入を決定した平成21年8月までに、当該商品一覧表に基づく製造委託契約が成立したとするX社の主張に対し、裁判所はX社・Y社間の取引基本契約には個々の委託契約の発注方法が定められており、また従来行われていた発注方法がこれに該当し、また上記商品一覧表には納期等を定められていないところ、別途合意がなされたとは認められず、3年もの長期にわたる製造委託の合意があったと考えることは不自然であるとして、商品一覧表の提示は注文に該当せず、契約が成立していない以上、X社の主張する債務不履行は認められないとした。
2.信義則上の注意義務違反
 裁判所はまず損害賠償を負うべき場合について、「契約を締結するか否かは、本来、当事者の自由な判断によるべき事柄であるが、当事者間の契約の交渉が成熟し、当事者の一方が当該契約の締結につき強い信頼を抱く状態に至った場合には、上記信頼は、信義則に照らし、法的に保護すべきものといえる。そして、一方当事者の上記信頼が法的保護に値するものと認められる場合において、相手方が帰責性のある行為により契約を締結せず、それが信義則違反と評価されるときは、相手方には、法的保護に値する利益を侵害したものとして、信義則上の注意義務違反による不法行為が成立し、相手方は、これと相当因果関係のある損害として一方当事者が契約の締結を信頼して支出した費用を賠償すべき責任を負うものというべきである」と規範立てをしました。その上で、契約交渉の発端、具体的な販売計画の提示、本件包装機械等の設置を前提とした被告による委託開始準備状況、さらに長年の取引関係、などの事情から、被告Y社は原告X社に対して、本件製品について、原告が本件包装機械等で製造することを前提に、商品一覧表「に記載された程度の内容の個別の製造委託契約を締結できるとの強い信頼を与えておきながら、本件商品の売上げが当初の予測を下回ったことにより、原告との間で個別の製造委託契約の締結をしなかったものであって、このような被告の対応は、被告に帰責性のある行為であり信義則に反するものと評価するのが相当であ」って、「被告には、信義則上の注意義務違反が認められ、被告は、原告の法的保護に値する利益を侵害したものとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負う」とした。

【紹介】
1.判決文中では、Y社について、国内雑穀市場の市場占有率は第1位(34.7%)としていることから、Yは富士川町にある大手の「●く●く」ですね。公表判決文でも仮名になっているので、梨大卒業生の有力も就職先でもありますし、この紹介でも仮名のままにしておきます。X社は少し新聞記事などを調べてみたものの、不明でした。
2.予備的主張は、いわゆる「契約締結上の過失」といわれるものです。現行法には規定はないものの、学説・判例で認められています。裁判所の説示部分(判旨の赤太字のところ)を、目がチカチカするでしょうが、参考にしてください。
 夢のある案件であればあるほど、現場は上手くいかなかった場合を想定しておらず、どこの会社でも起こりうる問題です。
 法務部門があれば助言ができたはずなので、「●く●く」も法務部門を整備しませんか?
3.損賠賠償額については、「(包装機械の購入価格相当額-中古価格)×過失割合5割」という算式で求められました。
 過失割合5割というのは引き分けに近いといえるでしょう。競合他社のコマーシャルに期待した販売計画を提示されて、それをうのみにして設備投資したことに原告の落ち度があったことが認められた結果です。
4.この事件は東京高裁に控訴され、損害賠償額が減額されたものの、X社の予備的主張は認められました(東京高判平成28・6・16)。

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Posted on 2017/03/08 Wed. 16:57 [edit]

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甲府地裁平成民事判例の紹介(11)-平成18年12月20日判決 

今日も快晴の甲府です。
研究室の庵主は、今日から明日にかけて、甲府市湯村にある 塩澤寺 さんの 厄除け地蔵尊大祭 のご奉仕があります。それまでは、研究室でいろいろ作業をしております。

今朝の南アルプスの様子はコチラ↓ 湯村は右手前の山の裏側になります。
20170213風景

さて、今日取り上げる甲府地裁の民事裁判例は、抵当権者による担保不動産収益執行とショッピングセンターの賃借人(テナント)による相殺との優劣関係を争った 平成18年12月18日判決(民集63巻6号1066頁) です。
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【事案】
 被告Y(日本トイザらス株式会社)は甲府市にあるショッピングセンターの一画を店舗として以下の条件で、賃貸人・訴外K社(甲府新都市開発株式会社)から賃借していた。
 ・賃借期間 平成9年11月19日から20年間
 ・賃料 月額735万円(税込) 毎月末日までに翌月分支払い
 ・保証金 3億1500万円 賃借開始から10年経過後から均等分割
 ・敷金 1億3500円
 賃借にあたり、被告Yは訴外Kとの間で、保証金と敷金を担保するため抵当権を設定し、その際訴外K社が他の債権者から差押等を受けた場合、被告Yによる通知催告なくても、保証金等について当然に期限の利益を失う旨の合意を行っていた。
 その後、平成18年2月に至り、訴外Kが固定資産税を滞納したことから、甲府市によって滞納処分としての差押えを受けた。保証金等が期限の利益が喪失したことから、被告Yは、同年3月28日到達の内容証明郵便によって保証金返還請求権と4月分の賃料を、同年4月12日到着の内容証明郵便によって保証金返還請求権と5月分以降の賃料を対当額が相殺する旨の意思表示を訴外Kに対して行った。
 一方、原告X(やしお債権回収株式会社)は甲府市にあるショッピングセンターの建物に抵当権(平成10年2月27日設定・登記)を有していたところ、債務者が債務を支払わなかったことから、ショッピングセンターの賃借料から債権の回収を図る担保不動産収益執行の申立てを行い、平成18年5月19日にその決定を受けた(同月23日登記)。
 原告Xは、被告Yに対し平成18年7月以降の賃料を請求したところ、被告Yが上記相殺により消滅したとして支払わないので、賃料の支払いを求めて提起したものが本件である。

【判旨】 原告Xの請求棄却
 裁判所は相殺の対象となった保証金の返還請求権と賃料について、次のように判示している。まず、保証金返還請求権は、賃借開始にあたり保証金が前払いされた日の翌日(原告Xの抵当権設定前)に被告Yが取得しており、滞納処分によって債務について期限の利益を喪失した平成18年2月16日の時点で訴外Kに対し返還を求めることができる状態になっていた。次に、賃料について、少なくとも賃料の前払いの合意のある本件では、被告Yはいまだ支払期限が到来していない賃料支払債務であっても、期限の利益を放棄して相殺に充てることができる。
 裁判所は、担保不動産収益執行の前に行った被告Yが行った将来の賃料に対する相殺は有効であって、被告Yの負担する「平成18年5月分から平成19年3月分までの賃料支払請求権は、本件相殺によって消滅していることとなる」とし、原告Xの請求には理由はないとした。

【紹介】
1.このショッピングセンターは、甲府市国母にあった「 グランパーク 」です。グランパークの略歴をWikipediaにから拾ってみると、次のようになります。ちなみに庵主も何度か前を通ったことがありますが、中に入ったことも、買い物をしたこともありません。
  1997年(平成8年)11月 開業
  2014年(平成26年)1月 トイザらス撤退
  2014年(同上)3月 閉鎖
  2015年(平成27年)10月 跡地にケーズデンキ甲府店が開店
  ※wikipediaのURLはコチラ→ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AF
2.グランパークには甲府市の多額の税金が投入されていたそうで(これもwikiネタ)、地方公共団体による投資失敗例ともされています。
3.この事件はその後最高裁判所にまで上告されました(最二判平成21・7・3民集63・6・1047。トイザらス勝訴)。この最高裁は結構有名な判決です。

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<おまけ>
昨日行った甲州高尾山からの南アルプスの様子
20170213おまけ

Posted on 2017/02/13 Mon. 10:44 [edit]

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甲府地裁平成民事裁判例の紹介(10)-平成23年6月30日判決  

新年明けましておめでとうございます。
研究室は本日から通常業務に戻っています。

今朝の南アルプスの様子はコチラ↓ 2017年最初の投稿です。
20170105風景

さて、今日取り上げる裁判例は、大学のサークルでの飲酒時に急性アルコール中毒で死亡した学生の両親がサークルの上級生に対して訴えを起こした-甲府地裁平成23年6月30日判決(判例時報2123号108頁)-です。山梨独らしい事件ではないものの、間もなく学生たちも春休みを迎える前なので取り上げておきたいと思います。

【事案の概要】
本件は、原告X1・X2の子A男(当時大学1年生。19歳)が所属する大学生のテニスサークルでの飲み会において、焼酎の回し飲みを行って泥酔し、急性アルコール中毒で死亡した事件について、原告らが同サークルの上級生であるY1(サークル代表者。当時大学2年生)ら6名に対し、不法行為ないし安全配慮義務違反として損害賠償を請求したものである。
裁判所の認定した飲酒の態様は次のとおりである。A男とY1らは、平成19年(2007年)2月22日から23日にかけて、サークルメンバーの誕生日会として開催されたY1の自宅における飲み会(参加者18名)に参加した。23日午前2時を回ったころ、A男を含む1年生5人全員と被告Y1と被告Y2(当時大学4年生)の間で、Y1・Y2の提案による焼酎「大五郎」20度の2.7リットル入りペットボトルの回し飲みを行った。この回し飲みの態様は、焼酎の「ペットボトルを、それぞれがボトルに口をつけてラッパ飲みし、飲めるところまで飲んで、次の者に回すという形」であり、「飲んでいる者に他の者がかけ声をかけ、手拍子を打って囃し立てるなど」するもので、サークル内では以前から時々行われていた。ペットボトルが回っているうちに参加者は順次離脱し、最終的にはA男とY2の二人が互いに飲ませあう形となっていた。A男とY2はペットボトルを飲み切ったのち、酔いつぶれて寝ていたところ、午前4時ごろに後片付けをしていたY1はA男が失禁しているのに気づき、また、午前7時ごろにY1はA男の呼吸が早くなって息苦しそうな様子に気づいたものの、特段の処置は行っていない。その後、正午ごろにY1と訴外B(当時大学1年生)が目を覚まし、A男の容態の異常に気付き、救急車を呼んだものの、その後死亡(検視による死亡推定時刻は午前6時ごろ)が確認された。

【判旨の概要】 請求棄却
1.回し飲みを強要の強要および救急救命措置をとる義務について
 サークルの飲み会への参加の状況、本件回し飲みの状況などから、裁判所は被告らがA男に対して一気飲みの強制をし、酔いつぶしたとは考え難いとした。さらに、原告らが主張する救命救命措置をとる義務について、その義務違反の不作為がA男の「死亡についての財産的精神的損害を賠償する不法行為責任を構成するものとして主張されているのであるから、その義務の存否は慎重に検討されなければならない」とした上で、原告が主張する論拠である、①条理による義務、②先行行為に基づく義務、③事務管理行為の開始による義務のいずれも裁判所はこれを否定した。

2.予見可能性について
 原告らは、亡A男が意識を喪失し失禁するという異常な事態に陥ったのであるから、死の結果発生の可能性について予見可能性があったと主張しているところ、裁判所は、A男の飲酒量は証拠上明らかではなく、また、A男の失禁に気づいたことが明らかなのはY1のみであったことから、予見可能性が問題となるのは被告のうちY1のみであるとした。その上で裁判所は、「泥酔時の尿失禁は昏睡状態でない場合にも少なからず見られる現象であること、また、一般人が泥酔者の尿失禁を見て、急性アルコール中毒によって昏睡状態にあるのか、単に酩酊して眠っているだけなのかを判定することは不可能であり、したがって尿失禁から死亡の危険を予知することも困難である」との被告側医師の意見書を採用し、また、被告Y1らの「法廷での証言あるいは本人尋問において、飲酒の結果失禁をした経験があり、酒を飲んでの失禁は珍しいことではなかったとの趣旨の供述」から、当時の本件サークル内に属する者の間では、酔いつぶれて失禁することはさほど危険視も問題視もされていなかったことが認められるとし、Y1に対する予見可能性-不法行為責任における過失の存在-を否定した。
 
3.安全配慮義務について
 本件サークルは、「学生を主体とした完全な任意参加の団体であり、メンバーへの拘束力は弱」く、「メンバー内の一年生と上級生との間の関係についても、特段上下関係や規則が厳しかったという証拠はない」。被告Y1は本件サークルの代表者であったといっても、そ「の目的が、メンバー相互のテニスや飲酒を通じての懇親をはかるといったものであって、組織的統制のもとに一定の社会的活動を果たすことを目的とする団体ではないから、代表者の地位も、結局は親睦団体の連絡役といった程度のものに過ぎないと考えられる」。そうすると被告らに対し安全配慮義務を課すことは困難であると言わざるを得ない。

【簡単な紹介】
1.回し飲みが行われた焼酎「 大五郎 」は、割安の焼酎として有名だそうです。庵主は飲んだことはありません。
  メーカーによる商品紹介のURLはコチラ↓ リンク切れ御免
   http://www.asahibeer.co.jp/products/shochu/korui/daigorou/

2.大学のクラブ活動やサークルにおける飲酒事故は、春の新歓時や夏の合宿時に耳にすることはありました。本件は1年生が亡くなったとはいえ、入学から1年近くたった時期の事件であり、その点も強制性の否定の判断材料の一つとなっています。

3.判決では損害賠償請求の根拠となる、A男を救護すべき法的義務が被告たちにはないとしました。ご両親の無念を考えると、いたたまれない部分はあるものの、本件の事案からすると裁判所の判断としては妥当なものであったと思われます。

4.参加者全員が被告となっているわけではありません。被告6名は、サークル代表者の2年生のY1ほか、4年生の学生たちのようです。しかし、被告となっていない4年生もいるようですし、回し飲みに参加した4年生のY2とY3以外の4年生に対する対する請求の論拠はもともと弱かったような気がします。

5.研究室の庵主は不幸な事故には遭遇しませんでしたが、後から冷静になって考えると、ヒヤリとすることもありました。大学名は仮名ですが、山梨にそれほど大学があるわけでもありません。他人事ではないのです。命を奪うこともあるアルコールの怖さを学生たちと共有しておく必要があります。

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<おまけ>
寒い入りのとても寒そうな南アルプスの夕暮れ
20170105風景2

Posted on 2017/01/05 Thu. 16:41 [edit]

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甲府地裁平成民事裁判例の紹介(9)-平成18年2月15日判決 

いよいよ10月も末となり、研究室のある甲府も肌寒い週末でした。

今朝の南アルプスはコチラ↓ 富士山は冠雪したようですが、鳳凰三山方面はまだのようです。
20161031風景

さて、本日の紹介裁判例は、宝石の販売業者が隣接地でのマンション工事が原因で損害を被ったと主張する-甲府地裁平成18年2月15日判決(裁判所ウェブサイト掲載判例)-です。法学的には立証不備による、当たり前すぎる判決なのですが、甲府の地場産業である宝石販売業者が当事者ということで取り上げてみます。

【事案の概要】
土木建築業者である被告Yは、ダイヤモンド、宝石の輸入、輸出、国内販売等を目的とする原告Xの事務所のある3階建てビルの近くで、マンション建設工事を行っていた。平成17年1月から2月にかけてのある日の朝、原告Xの代表者が事務所の机の上においてあった283gの天然グリーンベリル・アクアマリンが床下に落下しており、亀裂が生じていた。原告Xは、事務所からの帰宅時には机にあるのを確認しており、いままで宝石が机上から落下したことがないことから、被告Yの実施した工事により発生した強度の振動以外に原因は考えらないとして、亀裂が生じたことによる損害679万円余の損害を請求した事案である。

【判旨の概要】 請求棄却
裁判所は、「原告の請求が認められるためには、まず第1に、被告の工事によって発生した振動により原告事務所の机の上に置いてあった宝石が床上に落下したことが証明されなければならない」という損害賠償請求の原則論を述べた上、本件では原告Xからその証明がなされていないと請求を一蹴した。むしろ、落下した状況を誰も見ておらず、被告Yの工事以外の原因が不在の間に発生しているはずであり、宝石の落下原因が被告Yの工事だけしかないと断言することは到底できないし、宝石の落下を発見した日に関する主張が二転三転していること、また、被告Yが行ったとする「山留め工事」では大きな振動が生じないことの証拠が被告Yから提出されていることからすると、被告Yの工事と宝石落下事故との間に因果関係が存在すると認めることはできないし、そもそも宝石落下事故の発生自体についても疑いなしとはいえない

【簡単な紹介】
1)甲府は、江戸時代中期から水晶の研磨加工が行われており、現在でも有力な地場産業です。甲府市ウエブっサイトの子供向けページ<わくわくキッズ>に以下のような紹介が出ています。

 「研磨宝飾(けんまほうしょく):
甲府市は、ドイツのイーダオーバーシュタイン市とならび「世界二大宝石加工の街」に数えられるほど、宝石加工がさかんなところです。
甲府市では、宝石(ダイヤ、サファイヤ、エメラルドなど)や貴金属(金やプラチナなど)を使って、指輪・ネックレス・イヤリングなどのアクセサリーや、置物・茶器のように家にかざるものなどがたくさん作られ、日本全国で売られています。
むかしは、甲府市の北部でとれた水晶を使っていましたが、今は世界中から仕入れた水晶や、人工水晶を使っています。また、今は水晶・宝石・貴金属をつかった新しい品物の開発や、ほかの地域の伝統産業と組み合わせた新しい製品の開発も行っています。」

2)原告のいう宝石、天然グリーンベリル・アクアマリンは、非加熱で緑色のアクアマリンのようです。女心の分からない庵主にはチンプンカンプンなのですが、あまり高価なものでもなようです。原告Xの主張によると宝石の価値は1グラムあたり15万円とのことですが、果たしてどうなのでしょうか。
3)最近の裁判例は仮名が一般的で、その上でこのシリーズでは実名を調べて、さらっと触れたりすることもありますが、今回は原告の名誉を考えて、調べていません。
4)不法行為に基づく損害賠償の要件は、①加害者の故意または過失、②被害者の権利侵害、③損害の発生、④上記②と③の因果関係の存在となり、これを被害者が立証するのが原則です。②が全く立証されていません。原告は代理人弁護士を依頼していたのか・・・不明です。

Posted on 2016/10/31 Mon. 17:13 [edit]

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甲府地裁平成民事裁判例紹介(8)-平成15年11月25日判決 

前期の成績評価が昨日終了したので、一段落している研究室の庵主であります。

ここ数日暑い日が続き、午後になると毎日夕立が来ています。本日もやってきそうな雰囲気です。
 →記事を書いているときに軽く夕立がきました。

今朝の研究室の窓からの南アルプスはコチラ↓ 夏場はすっきり見える日は少ないです。
20160805風景

さて、本日紹介する裁判例は、山中湖畔の土地をめぐる山中湖村(原告・反訴被告)村民Y(被告・反訴原告)との争いです。本訴は山中湖村のYに対する所有権に基づく土地の明渡しを求める請求、反訴はYの山中湖村に対する当該土地を含む周辺の土地の耕作等の妨害禁止などを求める請求がなされました。争点はいろいろとあるのですが、今回はYが占有使用する土地に関して、Yが主張する入会権または使用貸借類似の無名契約に基づく使用権原を中心に紹介したいとおもいます。

【事案の概要】
 山中湖村は、「山中湖村総合湖畔緑地公園」建設のため、2000年(平成12年)12月から翌年6月にかけて所有者であった東京電力から山中湖村平野所在の山中湖畔の土地(以下「本件土地」という。)を買収した。Yは、この本件土地の一部(以下「Y土地」という。)を養魚場および農耕地として使用していた。Y土地を含む本件土地の歴史的な経緯は裁判所の認定によると以下のとおりである。
  [明治から大正時代] 旧来から入会が行われていた村持地(部落所有の共有の性質を有する入会地)は明治初年以来個人分割されてきたが、大正半ばには村持地の大部分が全入会権者による個人分割、あるいは共有名義とした。後者の土地については、将来の公益費用の支出に備えた財産確保と部落民の共同利用を目的とされた。
  [昭和大正から第二次大戦期] 1926年(大正15年)から翌年にかけて、桂川に水力発電所計画のあった東京電燈(東京電力の前身企業)に仲介者経由で所有権移転。所有権移転前後を問わず、採草地などとして部落民による共同利用がされていた。
  [第二大戦敗戦後] 終戦直後の食糧難の時代には農地のない部落民に割り当てて水田等に使用されせていたが、農政が減反政策に転じたことにより、部落民の共同耕作に切り替え、1999年まで継続していた。その間、1947年(昭和22年)に平野区と日本発送電(国策会社。後に分割し、各電力会社に吸収される)との間で使用貸借契約書が締結された(その後は東京電力との間で1954年、1961年、1967年、1978年、1988年に合意更新されている)。その後土地を買収した山中湖村の村長と平野区長との間で、2002年(平成14年)の期限到来をもって使用貸借契約を終了させ、更新しない旨の合意がなされた。
 
【判決の内容】  請求容認・反訴請求棄却
 Y土地のうち農耕地として利用されている土地について、当該土地を含む本件土地の東京電燈への売却後も、「平野部落民による共同利用がされており、さらに、戦後に至っては本件土地の大部分について平野部落の統制のもと個々の構成員が水田として利用するようになり、減反及びこれに伴う奨励金の分配が問題になると、そばを共同で耕作し、奨励金も平等に分配するなど、平野部落の統制のもと利用されてきたこと」を認めたものの、売却後の平野部落民の利用は入会権や平野部落と東京電燈等との間の永久かつ自由な使用という合意に基づいてなされたものとは認めることができない」とし、Yの主張を認めなかった。その根拠として、1947年の日本発送電と平野区(この時点では平野部落と同一視することができる。)との間の使用貸借契約の内容につき、「使用目的を農耕のみに制限し、浸水による農作物被害の補償をあらかじめ放棄するもので、その期間も5年間という短期に区切るなど平野部落構成員の本件土地利用に著しい制限があった。平野部落による本件土地の利用が入会権ないし平野部落と東京電燈及び日本発送電との間の永久かつ自由な使用という合意によるものであったのならば、平野区すなわち平野部落がこのような不利な条項の契約を締結するとは到底考えられない。さらに、かかる使用貸借契約が概ね同じ内容で5回にわたり更新され、当初の契約締結から55年余り続いていたことにかんがみれば、上記使用貸借契約の内容は本件土地が東京電燈へ売却された後の平野部落と東京電燈等との間の合意内容に即した内容であったものと解するのが相当であ」ることをあげた。そして、本件土地の使用が「むしろ使用貸借契約に基づくものと認めることができるから、仮に東京電燈に所有権が移転する以前に本件土地の一部について平野部落の入会権があったとしても、東京電燈への売却により入会権が消滅したと解するのが相当である」とし、たとえYが「入会集団である平野部落の構成員であったとしても、本件土地に入会権又は永久かつ自由な使用を内容とする使用貸借契約類似の無名契約に基づく使用収益権を有することはなく」、本件土地の一部であるY使用の農耕地についてもYは占有権原を有しない。
 次に、Y土地のうち養鯉場として利用されている土地については、Yの父が1937年に山梨県知事から養鯉場の許可を受け、その後同人およびYが養鯉場として占有使用していることは認められるものの、上記許可と使用権原とは関係はなく、また、Yの祖父または父が「東京電燈との間で永久かつ自由に養魚場として使用できる旨の使用貸借類似の無名契約が成立した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はな」い。むしろ、日本発送電または東京電力と平野区との間で使用貸借契約が締結されていることからすれば、Yらの占有使用は事実上の使用に過ぎない。仮に平野区からの転貸だとしても、2002年の使用貸借契約の期限到来により、その権原も喪失し、いずれにしてもYは使用収益権および占有権原を有しないとした。

【紹介】
1.最初に場所を確認しておきましょう。現在は、「山中湖交流プラザきらら」になっています。
  

2.Yの使用権限が入会権あるいこれに準ずるものなのか、単純な使用貸借なのかが、争点になっています。裁判所も入会権がかつて存在したことは認めた上、昭和初年の東京電燈への売却をもって入会権が消滅したとしています。当時の東京電燈の取得目的からすると、入会権者の部落民全員が入会権を放棄する意思があったとは言い切れないような気がしますが、どうでしょうか?
3.事案の概要では割愛しましたが、東京電力は山中湖村への売却時に「湛水地役権」という権利を設定しています。実際の登記簿を確認していないので、今回の湛水地役権の具体的な権利内容はわからないのですが、現に耕作されている遊水地などでしばしばみられるものであり、国交省のお役人さんの論文(山本進「遊水地事業における湛水権原の確保手法-上野遊水地から考える」近畿地方整備局ウエブサイト)によると、①遊水地の越流堤設置に起因する浸水及び冠水を認容すること 、②遊水地の機能の保全の妨げとなる工作物の設置などの禁止だそうです。
4.平野部落には、問題となった土地以外に(判決では入会消滅)、富士北麓梨ケ原共同入会地(自衛隊北富士演習場)三国峠・山伏峠間の県有地2か所の計3か所の入会地が現在もあるとされています。この部分は傍論なので法的な効果はありません。
5.反訴原告Yさん以外の耕作者は土地の明け渡しを了解したとのことです。この点、Yさん側の法律鑑定をした宮平真弥流通経済大学教授による判例研究があります。この判例研究はCiNiiのオープンアクセス論文になっています。
http://ci.nii.ac.jp/els/110007190479.pdf?id=ART0009149338&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1470376444&cp=

Posted on 2016/08/05 Fri. 16:51 [edit]

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2017-04