家族法メモ-犬神佐兵衛翁の遺言(2) 

いよいよ年度末となりました(明日から不在なので、今日が実質最終日)。

今朝の南アルプスの様子はコチラ↓ 霞んでいます。
20180328風景

さて、引き続き犬神佐兵衛翁の遺言のことです。
前回家族法の教科書が云々と書きましたが、念頭にあったのは神戸大学の 窪田充見教授 の教科書(窪田充見『家族法[3版]』(有斐閣、2017年)501頁以下)でした。若干勉強くさくなるものの、窪田先生の教科書の解説をつまんでゆきたいと思います。

窪田教科書

まず
遺言の第1項「犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧、琴、菊はつぎの条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとする。」という部分ですが、三種の家宝の承継を通じて全財産を珠世に譲ることを意味するとし、このような遺言による承継は 包括遺贈 だと理解することができそうだとされています。包括遺贈とは、遺言によって、特定の財産を承継させる特定遺贈jと対置される概念であり、遺産の全部または一定の割合で示された部分を承継させるものをいいます。佐兵衛翁の遺言では全部ですね。

ただし、他の部分(たとえば第3項、第5項)にも照らすと、珠世が全財産を取得するのは相続によってであるようにもみえるが、包括遺贈者は相続人と同一の権利義務を有する点などからするとあまり神経質になる必要はないとされています。また、全財産の遺贈ということになると、遺留分減殺請求の問題になる可能性も指摘されています(この点は次回)。

次に
遺言の第2項の珠世が全財産を承継するためには、「その配偶者を、犬神佐兵衛の三人の孫、佐清、佐武、佐智の中より選ばざるべからず。」とする部分について、いかにも公序良俗に反しそうな気がする(公序良俗違反なら無効となる)とされつつ、佐兵衛翁の三人の孫の誰かと結婚した場合には、全財産を与えるということであれば、目くじらをたてるようなものではないと評価されています。しかし、この部分が本品中で殺人事件を招くことになるのですが・・・

そして
遺言の第3項の「野々宮珠世にして、斧、琴、菊の相続権を失うか、あるいはまたこの遺言状公表以前、もしくは、この遺言状が公表されてより、三か月以内に死亡せる場合には、犬神家の全事業は、佐清によって相続され、佐武、佐智のふたりは、~、佐清の事業経営を補佐するものとす。」と「犬神家の全財産は、犬神奉公会によって、公平に五等分され、その五分の一ずつを、佐清、佐武、佐智にあたえ、残りの五分の二を青沼菊乃の一子青沼静馬にあたえるものとする。」の部分は、いわゆる 補充遺贈 に、同項但し書きの「分与をうけたるものは、各自の分与額の二十パーセントずつを、犬神奉公会に寄付せざるべからず。」の部分は、裾分け遺贈 に該当するとされています。補充遺贈とは条件のついた遺贈をいい、また裾分け遺贈とは遺贈によって受ける利益の一部を他の者に与えなければならないとする負担の付いた遺贈であるとされています。

最後に
窪田教授は、教科書らしく、この事例から何を学ぶかを記述されているので、その部分を引用しておきます。
この遺言について、一定の法的意味付けを与えることはできないわけではない。でも、結局、激しい財産争いが生ずるような遺言を書いちゃいけません……というのが、正直な感想である。なるほど自分の財産である以上、それを自由に処分できるというのは出発点である。しかし、死後の財産の行方にういて、あまりに執着すると、どうも誰も幸せになれないおうな気がする。少々まじめな話に戻すと、跡継ぎ遺贈の議論についても、ひょっとしたら、そうした側面があるのではないかという気もしている。」

<つづく>
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Posted on 2018/03/28 Wed. 13:08 [edit]

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家族法メモ-犬神佐兵衛翁の遺言(1) 

庵主の勤める大学では本日が卒業式です。
快晴になり、貸衣装の卒業生にとっては天候に良き日となりました。

今朝の南アルプスの様子はコチラ↓ 一昨日の雪が残っているようです。
20180323風景

さて、久しぶりに法律の話題をアップしておきたいと思います。

横溝正史 の代表作のひとつに「 犬神家の一族 」があります。この作品は、長野県那須市(もちろん架空の場所です。諏訪がモデルといわれています)において日本有数の製糸会社を一代で築いた犬神佐兵衛翁が遺した遺言をきっかけに起きた惨劇と名探偵金田一耕助の事件解決までの活躍を描いたものであり、この遺言が重要な役割を果たしています。

少し前、家族法の授業のためにいくつかの教科書をながめていたところ、犬神家の遺言に関してコメントをしている家族法先生がいらっしゃいました(内容は次回以降にとりあげます)。近頃の学生は「犬神家の一族」といっても知らない危険性があるので、授業で言及はしませんでしたが、この機会には家族法上のいくつかの論点をまとめておきたいとおもいます。だだし、研究室の庵主は家族法の専門家ではないので、教科書レベルの整理になるとおもいます。

まず、最初に犬神家の遺言の内容を抜き出しておきましょう。なお、以下作品からの引用は横溝正史『犬神家の一族』(KADOKAWA、改版、1998)を底本にします。

遺言状の条項(65‐70頁)

ひとつ  ……犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧、琴、菊はつぎの条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとする。

ひとつ  ……ただし野々宮珠世はその配偶者を、犬神佐兵衛の三人の孫、佐清、佐武、佐智の中より選ばざるべからず。その選択は野々宮珠世の自由なるも、もし、珠世にして三人のうちの何人とも結婚することを肯ぜず、他に配偶者を選ぶ場合は、珠世は斧、琴、菊の相続権を喪失するものとす。……

ひとつ  ……野々宮珠世はこの遺言状が公表された日より数えて、三か月以内に、佐清、佐武、佐智の三人のうちより、配偶者を選ばざるべからず。もし、その際、珠世の選びし相手にして、その結婚を拒否する場合には、そのものは犬神家の相続に関する、あらゆる権利を放棄せしものと認む。したがって、三人が三人とも、珠世との結婚を希望せざる場合、あるいは三人が三人とも、死亡せる場合においては、珠世は第二項の義務より解放され、何人と結婚するも自由とす。

ひとつ  ……もし、野々宮珠世にして、斧、琴、菊の相続権を失うか、あるいはまたこの遺言状公表以前、もしくは、この遺言状が公表されてより、三か月以内に死亡せる場合には、犬神家の全事業は、佐清によって相続され、佐武、佐智のふたりは、現在かれらの父があるポストによって、佐清の事業経営を補佐するものとす。しかして、犬神家の全財産は、犬神奉公会によって、公平に五等分され、その五分の一ずつを、佐清、佐武、佐智にあたえ、残りの五分の二を青沼菊乃の一子青沼静馬にあたえるものとする。ただし、その際分与をうけたるものは、各自の分与額の二十パーセントずつを、犬神奉公会に寄付せざるべからず。

ひとつ  ……犬神奉公会は、この遺言状が公表されてより、三か月以内に全力をあげて、青沼静馬の行方の捜索発見せざるべからず。しかして、その期間内にその消息がつかみえざる場合か、あるいはかれの死亡が確認された場合には、かれの受くべき全額を犬神奉公会に寄付するものとす。ただし、青沼静馬が、内地において発見されざる場合においても、かれが外地のいずれかにおいて、生存せる可能性がある場合には、この遺言状が公表されたる日より数えて向こう三か年は、その額を犬神奉公会において保管し、その期間内に静馬が期間せる際は、かれの受くべき分をかれに与え、帰還せざる場合においては、それを犬神奉公会におさむるものとする。

ひとつ  ……野々宮珠世が斧琴菊の相続権を失うか、あるいはこの遺言状の公表以前、もしくは公表されて三か月以内に死亡せる場合において、佐清、佐武、佐智の三人のうちに不幸ある場合はつぎのごとくなす。 その一、佐清の死亡せる場合。犬神家の全事業は協同者として佐武、佐智に譲らる。佐武、佐智は同等の権力をもち、一致協力して犬神家の事業を守り育てざるべからず。ただし、佐清の受くべき遺産の分与額は、青沼静馬にいくものとする。 その二、佐武、佐智のうち一人死亡せる場合。その分与額同じく青沼静馬にいくものとす。以下すべてそれに準じ、三人のうち何人が死亡せる場合においても、その分与額は必ず青沼静馬にゆくものとなし、それらの額のすべては、静馬の生存如何により前項のごとく処理す。しかして佐清、佐武、佐智の三人とも死亡せる場合に於ては、犬神家の全事業、全財産はすべて青沼静馬の享受することとなり、斧、琴、菊の三種の家宝は、かれにおくられるものとなす。


作品中では、「犬神佐兵衛翁の遺言状は、実際はもっと長いのである」とされ、「そこには野々村珠世をはじめとして、遺言状の中に名前があげられる、佐清、佐武、佐智の三人のいとこ、ならびに青沼静馬なる人物と、この五人の人間の生と死との組み合わせが、あらゆる場合の可能性を追究していく、一種のパズルのようなものであった」とされています(70頁)。

登場人物は遺言者である犬神佐兵衛翁を含めて7人ですね。作品を読まれたことのない方、たびたび制作された映画等をご覧になったことのない方のために、人物関係を明らかにする必要があるのですが、面倒なので、ウィキペディアの記事「犬神家の一族」を参考にしてください。
URL  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8A%AC%E7%A5%9E%E5%AE%B6%E3%81%AE%E4%B8%80%E6%97%8F

<つづく>

Posted on 2018/03/23 Fri. 10:52 [edit]

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同性婚に関する台湾司法解釈 

研究室のある甲府は今日も真夏日の予報です。

久しぶりの南アルプスはコチラ↓ 久しぶりなのに霞んでいます。
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さて、先週末5月24日に、台湾の司法院大法官会議から、同性婚に対する注目すべき司法解釈748号が公表されました。たまたま、1年生の演習でLGBT問題を調べてもらっているので、研究室の庵主もこの週末原文を読んでいました。今回は折角読んだこともあり、少し紹介しておきたいと思います。

原文のURLはコチラ↓ 英文のプレスリリースもついています。
http://jirs.judicial.gov.tw/GNNWS/NNWSS002.asp?id=267570&flag=1®i=1&key=&MuchInfo=&courtid=

司法院大法官会議が示した司法解釈は以下のとおりです(拙訳御免)。
1.中華民国民法の婚姻規定は、同性カップルが共同生活を営むために親密性かつ排他性を有する、永続的な結合関係を形成できる範囲で、中華民国憲法22条の婚姻の自由と同7条の法の下の平等に違反している。
2.関係機関は、本解釈公布の日から2年以内に、本解釈に従い関連法規の修正あるいは制定をおこなうべきである。
3.いかなる形式で婚姻の自由と法の下の平等を達成するかは、立法形成の問題である。
4.関連法規の改正等が間に合わないときは、同性カップルは永続的な結合関係を成立させるため、現行の婚姻規定により、2名以上の証人の署名のある書面をもって、戸籍機関に結婚登録をすることができる。


この解釈とその理由づけについては、家族法や台湾法、あるいはLGBTに関する専門家(たとえば、鈴木賢明治大学教授などが有名)から適切なコメントが出されているようなので-まだ見ていません-、庵主は興味を持った点だけを書いておきたいと思います。

大法官会議は、婚姻制度が子孫を残すことへの保証制度と考えることについて、根拠のないものとしています。すなわち、婚姻規定は、生殖能力を婚姻の要件としておらず、婚姻後に子供ができないことをその無効や離婚の要件としていないことから、子孫を残すことが婚姻の不可欠の要素ではないと言い切りました。

これまでの「婚姻」「結婚」という語感からは、違和感を持つ人たちがいるかもしれません。その点では新たな制度か名称をあたえるべきなのかもしれません。

説示の後先は逆なのですが、大法官会議は、次のようにも述べています。すなわち、同性カップルの永続的な結合関係を成立させることは、異性カップルに適用される現行の婚姻規定の効力に影響を与えないし、また異性カップルによって構成されてきた社会秩序を改変するものではない、と。

この点、説明のために、日本民法における婚姻の効力を見てみましょう。日本民法では、①夫婦同氏(民法750条、751条)、②同居・協力・扶助義務(民法752条)、③成年擬制(民法753条)、④夫婦間契約取消権(民法754条)、⑤貞操義務、⑥相続権(民法890条)、⑦婚姻費用の分担(民法760条)、⑧日常家事債務の連帯(民法761条)や⑨嫡出推定(民法772条)などがあげられます。この中で同性カップルとして不都合が生じるおそれがあるのは、子が絡む嫡出推定のみです。

具体的には、第三者の精子によって懐胎した女性とそのパートナーがいた場合、このパートナーと子との関係をどのように規律するかの問題が生じます。ただし、この点はパートナーが男性であったとき(異性婚)でも、生殖補助医療の問題として議論が必要なので、同性婚を否定する理由にはなりません。

台湾の今回の司法解釈は、アジア初とのことです(25日付け日経新聞朝刊社会面)。今後どのようになるのでしょうか。門外漢ながら注目してゆきたいと思います。

最後に本件司法解釈によると、30年間にわたり権利を主張してきた祁家威さんに対し、敬意と祝意をささげるため、写真を掲載しておきたいと思います。
家威    zh.wikipediaより

Posted on 2017/05/30 Tue. 11:17 [edit]

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「企業活動と人権」に関する思いつき 

またまた長らく更新できませんでした。
今年から授業内容を組み替えたことや少し毛色の変わった非常勤講義を持ったことから、授業準備が自転車操業状態だったことが原因です。今週でだいたいの講義が終わり、更新の仕方を忘れないように、簡単に記事で更新しておきたいとおもいます。

久しぶりの南アルプスの風景はコチラ↓ この季節あまりスッキリ見えることは少ないです。
風景20160729

以前このブログにも書いたと記憶していますが、
同僚の教員は着任前の庵主について、企業出身者ということで
お金儲けのためには犯罪行為だってへっちゃらだよ、とか戦争だってやっちゃうよ
という考え方の人ではないかと妄想していたそうです。

そういうこともあって、たまたま1コマ余裕のできた非常勤先の講義で、 「ビジネスと人権」 について、話をすることにしました。

庵主が前職で管理職になったころ、関西本社の会社であったこともあり部落差別 の問題について研修がありました。また、勤務中には、男女差別や各種ハラスメント も話題になることが少なくありませんでした。

もっぱら日本国内における企業と人権の問題も重要なのですが、その一方1990年代から多国籍企業による発展途上国における人権侵害とビジネス活動との問題がクローズアップしてきました。グローバル化の影の部分ですね。
すなわち、代表例として、先進国の企業は、より安い労働力を求めて発展途上国に生産拠点を移し、その生産拠点となった取引先であるいはそのまた取引先(サプライチェーン)において、児童労働奴隷的労働劣悪な労働環境などの労働上の問題、環境破壊などの環境問題などが生じているという問題です。

企業に身をおいた経験としては、確かに、
人権はお金儲けにつながらない(逆にコストがかかる)
取引先やその先の問題なので関知できないし、干渉すべきではない

といって、人権問題の発生をなかったことにしたいという誘惑にかられる企業人が少ないと推測します。

しかし、人権問題があるような企業またはその企業の商品に対しては、国際的な不買運動や訴訟提起が行われるようになっているだけでなく、持続可能な企業活動とはいえないとして、企業としても国内だけでなく、国際的な人権問題から目を背けられなくなっています。

国際的な人権問題について、ここでいう人権とは何でしょうか?
2011年に国連人権委員会に報告された「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」(邦文訳は国際連合人権センターに掲載→ http://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/ )によると、最低限として、国際人権章典(世界人権宣言、国際人権規約など)と国際労働機関宣言であげられた基本的権利に関する原則とされています。

したがって、昨今話題の「日本固有の伝統に基づいた人権観」とは異なる可能性大です。
人種、国籍、宗教にかかわらず、普遍的と国際的に考えられている人権が想定されています。

また、先ほどの人権員会報告の中に企業の責任に関して次のような原則があります。
企業は人権を尊重すべきである。 これは、企業が他社の人権を侵害することを回避し、関与する人権への負の影響に対処すべきことを意味する。」(付録一般原則11)
この原則の解説には、「企業は、司法手続の不偏不党性を弱めかねない行為などによって、国家が人権義務を果たす力をむしばむべきではない。」とされています。たとえば、自分たちの事業を裁判所の審査の対象外とし、司法上の規制を受けないようにすることを働きかけるなどの行動は、重大な懸念があるといえるでしょう。

上記以外にもいろいろ気づく点があるのですが、またの機会に・・・・

Posted on 2016/07/29 Fri. 14:12 [edit]

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民法(債権関係)改正案における個人保証人保護の拡充 

庵主の研究室のある山梨大学でも明日から講義がはじまります。
今日は、講義の準備と週末に大阪で行う研究会報告の準備のために登校しています。

今朝の研究室からの南アルプスの様子はコチラ↓ 雪が少なくなっています。
20160411風景

研究会報告では、昨年3月に国会に提出され、現在も継続審議中の民法(債権関係)改正法案における保証に関する規律と実務上の対応をとりあげる予定です。銀行からお金を借りるとき、家を借りるときなどに保証人を立てるなど、日常生活でもしばしば接することになる法律制度であり、今回の改正でも重要な点が含まれるため、研究会で取り上げる次第です。

以前市民向けの別の機会にも、個人保証人保護の拡充ということで話をさせてもらう機会もあり、普通の社会人でも関係するような場合をとりあげて考えてみたいと思います。

まず、個人が保証人となる場合の規律の全体像を整理するとつぎのようになります。
┏ 普通保証
┃ ┣ 被保証債務が事業のために負担する債務以外 【ケース①】
┃ ┗ 被保証債務が事業のために負担する債務
┃    ┣ 事業のために負担した貸金等債務が含まれない
┃    ┗ 事業のために負担した貸金等債務が含まれる 
┃       ┣経営者保証 
┃       ┗経営者保証以外(いわゆる第三者保証)
┗ 根保証
   ┣ 被保証債務に事業のために負担とする債務が含まれない
   ┃ ┣ 貸金等債務が含まれない【ケース②】
   ┃ ┗ 貸金等債務が含まれる  
   ┗ 被保証債務に事業のために負担する債務が含まれる
     ┣ 貸金等債務が含まれない
     ┣ 貸金等債務は含まれるが、事業のために負担する貸金等債務が含まれない
     ┗ 事業のために貸金等債務が含まれる
       ┣ 経営者保証【ケース③】
       ┗ 経営者保証以外(いわゆる第三者保証)【ケース④】

複雑ですね。
まず、用語の解説です。「普通保証」と「根保証(ねほしょう)」ですが、前者は単発の借り入れや商品購入代金の支払いを保証するような場合をいい、後者は一定の範囲に属する不特定の債務(たとえば、毎月購入する商品代金を担保する、事業資金を毎月必要額借り入れるなど。クレジットカードもそうですね)の支払いを保証する場合をいいます。

具体的な例で考えてみましょう。息子が借り入れた居住用住宅ローンの保証はケース①に該当し、今回の民法改正案による変更はありません。これに対して、息子がアパートを借りた場合にする家賃等の保証はケース②に該当し、改正法案では保証の限度額(極度額といいます)を書面で決めないと保証そのものが無効となります(改正法案465条の2)。

よほどの大企業でもない限り、会社の経営者は会社の銀行借入れ(貸金等)や仕入れ代金について保証することがあります。このような場合はケース③に該当します。
ケース③では、上記の極度額を定めるほか、確定期日といって保証対象となる債務の発生時期が最長5年に制限されます。これらの点は現行法でも同様です。これらに加え、保証人になってくれと依頼する者・会社(主たる債務者=主債務者といいます)は、その財産状況・収支の状況、被保証債務以外の債務の状況などに関する情報を依頼を受けた者に提供しなければなりません。この情報提供がなかったり、あるいは事実と異なる情報を提供されたことにより、誤認が生じた場合は、保証を取り消すことができると明記されました(改正法案法案465条の10)。
問題は改正法案における「経営者」とは誰かになります。この点、会社の取締役過半数の株式を有する大株主、共同事業を行う者、それにこのような会社が行う事業に現に従事している配偶者とされています(改正法案465条の9参照)。

知人の保証人になって巨額の負債を負ってしまい、家族の人生が無茶苦茶になった的な話は、どうでしょうか。
このような事態はケース④で生じます。すなわち、事業資金の銀行借り入れなど巨額になりがちな事業上の債務について、友誼心などから保証をしてしまった場合です。
ケース④では、ケース③と同様の規律のほか、保証人になろうとする者が保証人になる段階(1か月以内)に法律の専門家である公証人に対し、保証の内容や保証人として責任を負う意思を口述して、公正証書という書類を作成しないと、保証は有効に成立しないと定めました(改正法案465条の7)。

上記のように巨額の負債になり、保証人が過重な負担を負うおそれがあるような保証の場合、入り口で保証人が再度考慮することができる機会を挟ませたわけですね。
銀行をはじめ、債権者側としては業務コストは上がるでしょうが、やむを得ないものとして対応してゆくこととなるでしょう。

Posted on 2016/04/11 Mon. 15:02 [edit]

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